寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 少々冷めた目でマテアスは言った。侯爵令嬢だった(ロミルダ)は、公爵家の家令である(エッカルト)を落とすために、大胆にも夜這(よば)いを決行した。両親の密事など知りたくもないが、ふたりのロマンスは子供の頃から公爵家内で語り継がれているため、嫌でも耳に入ってくるというものである。

大旦那(ジークフリート)様と大奥(ディートリンデ)様も、託宣を前倒しして婚姻を果たされました。お子ができてしまえば、ダーミッシュ伯爵も頷かざるを得ないでしょう」
「フリート様の暴走は誰にも止められなかったものね。エッカルトもリンデ様も、すっかり諦めの境地だったわ」

 うんうんとマテアスは頷いた。このままではジークヴァルトも暴走しかねない。素直に甘えてくるようになったリーゼロッテを前にして、主の理性の糸は、日増しに細く細く引き絞られている。

(公爵家の呪いで執務室を破壊されるくらいなら、旦那様の部屋で本懐(ほんかい)()げていただきましょう)

 それこそがマテアスの最大の本音だ。だが、ジークヴァルトを応援したい気持ちもまた、心からの事だった。

「とにかく邪魔はしないようお願いします」

 そう言って、ロミルダの背を押していく。リーゼロッテがジークヴァルトの部屋を訪れるに当たって、エラはロミルダが同席しているものと思っている。刺繍教室でエラが不在にしている今を、逃す手はないだろう。

 間もなく執務室の隠し通路を通って、ジークヴァルトがリーゼロッテの待つ部屋へと戻る手はずだ。
 ためらうロミルダをグイグイと押しながら、マテアスはしたり顔でほくそ笑んだ。

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