寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
子供の頃のマナー教師の教えの通りに、手紙の書き出しには「愛しい人へ」と書かれていた。しかし、“子供が教えられたとおりに書きました感“が、そこからはひしひしと伝わってくる
手紙の内容も、その九割は食べ物に関することだった。今日のおやつは美味しかったとか、夕食がどれだけ絶品だったとか、そんなことが食レポよろしく熱く語られている。残りは両親に関することや、義弟のルカがいかに可愛らしいのかを力説する内容が綴られていた。
「心配するほどおかしなことは書いてないわ……」
身もだえるほど恥ずかしい内容の手紙を、あのジークヴァルトに送っていたのだと思っていた。それだけに安堵も大きく、同時になんだか拍子抜けしてしまった。
しかし、初恋の人に向けて書く内容でもないだろう。あの頃の自分は、何を思ってこの手紙をしたためていたのだろうと、我がことながらリーゼロッテは呆れていた。
ジークヴァルトが爵位を継いだ後の数年の手紙は、自分が見ても他人行儀な文面が並べられている。愛しい人へ、などというふざけた書き出しも、この頃から書かなくなった。
(この時期は、黒いモヤを纏うヴァルト様が、恐ろしくて仕方なかったっけ)
あのモヤの原因は、自分に憑いた異形の者の波動に、同調してしまっていたからだ。異形が感じるジークヴァルトへの恐怖を、つぶさに受け取ってしまった結果、視えていたものだった。
ふと、淹れられた紅茶の横に、同じ箱が置いてあるのが目に入った。その上に、封筒から出されたままの便箋が乗っている。見覚えのある便箋なので、あれも自分の手紙なのだろう。だが、最近は公爵家にずっといるので、ここのところ手紙のやり取りもしていない。
「これ……ピクニックの日程が決まった時に書いたものだわ」
十五になる直前に、ダーミッシュ領の花畑に出かけた時の話だ。去年の夏に書いた手紙なので、なぜ今これがテーブルの上に置いてあるのか、リーゼロッテは不思議に思って首をかしげた。
この手紙を書いたときは少し寝不足で、文章がうまくまとまらなかった覚えがある。しかし、今読み返してみると、礼節の保たれたなかなかよくできた文章だ。リーゼロッテは自分のことながらよく書けていると、満足げに頷いた。
手紙の内容も、その九割は食べ物に関することだった。今日のおやつは美味しかったとか、夕食がどれだけ絶品だったとか、そんなことが食レポよろしく熱く語られている。残りは両親に関することや、義弟のルカがいかに可愛らしいのかを力説する内容が綴られていた。
「心配するほどおかしなことは書いてないわ……」
身もだえるほど恥ずかしい内容の手紙を、あのジークヴァルトに送っていたのだと思っていた。それだけに安堵も大きく、同時になんだか拍子抜けしてしまった。
しかし、初恋の人に向けて書く内容でもないだろう。あの頃の自分は、何を思ってこの手紙をしたためていたのだろうと、我がことながらリーゼロッテは呆れていた。
ジークヴァルトが爵位を継いだ後の数年の手紙は、自分が見ても他人行儀な文面が並べられている。愛しい人へ、などというふざけた書き出しも、この頃から書かなくなった。
(この時期は、黒いモヤを纏うヴァルト様が、恐ろしくて仕方なかったっけ)
あのモヤの原因は、自分に憑いた異形の者の波動に、同調してしまっていたからだ。異形が感じるジークヴァルトへの恐怖を、つぶさに受け取ってしまった結果、視えていたものだった。
ふと、淹れられた紅茶の横に、同じ箱が置いてあるのが目に入った。その上に、封筒から出されたままの便箋が乗っている。見覚えのある便箋なので、あれも自分の手紙なのだろう。だが、最近は公爵家にずっといるので、ここのところ手紙のやり取りもしていない。
「これ……ピクニックの日程が決まった時に書いたものだわ」
十五になる直前に、ダーミッシュ領の花畑に出かけた時の話だ。去年の夏に書いた手紙なので、なぜ今これがテーブルの上に置いてあるのか、リーゼロッテは不思議に思って首をかしげた。
この手紙を書いたときは少し寝不足で、文章がうまくまとまらなかった覚えがある。しかし、今読み返してみると、礼節の保たれたなかなかよくできた文章だ。リーゼロッテは自分のことながらよく書けていると、満足げに頷いた。