寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「えっ!?」

 しかし書かれた結びの文を見て、一転リーゼロッテは絶句した。

『わたくしはあなただけのもの』

 何かの間違いだと思いたい。だが、その手紙の最後には確かにそう書いてある。よく見ると、その書き出しも『愛しのジークヴァルト様』などと、臆面もなく綴られていた。
 急いで書いたのがあだとなって、子供の時によく書いていたテンプレのような書き出しと結びを、無意識にしたためてしまったのかもしれない。

 この文面を、ジークヴァルトは読んだのだ。愛しのジークヴァルト様。わたくしはあなただけのもの。その言葉が頭の中でぐるぐると回る。リーゼロッテは恥ずかしさのあまり、手にした手紙をぐしゃりと握りつぶした。

「しわになるだろう」

 背後から声がして、手紙をひょいと取り上げられた。便箋を丁寧に伸ばすと、ジークヴァルトはそれを大事そうに封筒の中へとしまった。

「ジークヴァルト様……」

 動揺で二の句が継げられない。なんとか気持ちを落ち着けて、リーゼロッテは意を決したように隣に立つジークヴァルトの顔を見上げた。

「あの、ヴァルト様。そちらの手紙は間違いというか手違いと言うか、とにかく早急に処分していただけませんか?」

 あれをネタに、一生からかわれるような事態は絶対に避けたい。ジークヴァルトはわざわざ見えるようなところに置いていたのだ。その可能性はないとは言えないだろう。

「いや、駄目だ。これはオレが受け取ったものだ。これの所有権はオレにある」

 ふいと顔をそらすと、ジークヴァルトは胸のポケットにその手紙をしまってしまった。

 抗議をする間もなく、手を引かれてソファに座らされてしまう。間髪(かんぱつ)置かずに苺のタルトをフォークで(すく)い上げると、ジークヴァルトはあーんと口元に差し出してきた。
 仕方なくそれを口にする。公爵家で出てくるスイーツは、どれも安定のおいしさだ。どうせ食べるならばその味を心ゆくまで堪能(たんのう)しようと、リーゼロッテは運ばれるまま素直にすべてを完食した。

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