寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 一息ついたところでジークヴァルトの視線を感じる。リーゼロッテはクラッカーを手に取り、ジークヴァルトへと差し出した。

「あーんですわ、ヴァルト様」

 その口に押し込むと、ジークヴァルトがもぐもぐしながらじっと顔を見つめてくる。だが、その視線はまた唇へと向かっていて、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。

「あの、ヴァルト様……わたくしの口に何かついておりますか?」

 去年の終わりくらいから、ジークヴァルトは自分の口元を頻繁に凝視するようになった。鏡をのぞいても特に変わったこともなくて、リーゼロッテはずっと不思議に思っていたのだ。

(エラは、ヴァルト様がキスしたいと思ってるなんて言っていたけど……)

 自分を子供扱いしているジークヴァルトが、そんな願望を抱くなどあり得ないだろう。

「別に何もない。お前の口には口がついているだけだ」

 ぎくりとした様子で、ジークヴァルトはさっと視線をそらした。その態度に、やはり何かあるのだとリーゼロッテは唇を尖らせた。その動きをジークヴァルトは横目で追っている。そこまでして見てしまうということは、やはり自分の口には何か重大な秘密があるに違いない。

(でも、何も言ってくれないのよね)

 ここ最近、いろいろと努力をしてみたが、結局ジークヴァルトが自分を頼ることはない。気を遣って、大事にしてくれていることはよく分かっている。同じ託宣を受けた者同士として、ジークヴァルトなりに努力をしてくれているのだろう。

(もういいわ。何を言っても、お前はそのままでいいって言うんだもの。だったらわたしはわたしのしたいようにさせてもらうんだから)

 龍の託宣がある以上、ふたりはどうあっても連れ添って生きていかなければならない。そこに愛情はなくとも、お互いが尊重し合ってやっていくのが、いちばん理にかなっていると、リーゼロッテは結論付けた。

「ヴァルト様、わたくし頑張りますわ」

 寄りかかるばかりではいけない。できるだけ迷惑をかけないように自立しよう。結局のところ一周回って、初めに思っていたことに辿(たど)りついただけだった。だが、もう迷わない。そう決めてリーゼロッテはジークヴァルトへと微笑んだ。

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