寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 ジークヴァルトが訝し気な表情をしたところで、リーゼロッテはその小さな手を差し伸べた。
「今日もやらせてくださいませね?」
 そう言ってジークヴァルトの手に指を絡める。瞳を閉じて、力の流れに意識を集中した。

 異形の気配もない静かな空間だからだろうか。部屋に満たされたジークヴァルトの気に包まれたまま、いつもよりもリラックスして、手のひらに緑の力を集めていった。

 気づくとジークヴァルトの腕の中にいた。うすく瞳を開けると、ジークヴァルトはリーゼロッテの唇に親指を這わせて、時折ぷにぷにと押しながら(もてあそ)んでいる。

 夢中になっているのか、自分が目を覚ましたことにも気づかない。珍しいと思って、しばらく好きにさせていたが、いつまでも終わりを見せない行為に、リーゼロッテは苦笑いしながらいたずらな手をつかみとった。

「ヴァルト様、くすぐったいですわ」
「――……っ!」

 驚いたように手を引っ込める。リーゼロッテはジークヴァルトの膝から降りて、すまなそうな顔を向けた。

「申し訳ございません。つい夢中になって、いつもより力を使ってしまったみたいですわ」

 眠りこけた自分を前に、ジークヴァルトも手持ち無沙汰だったのだろう。それよりもこれを禁止される方が困るので、リーゼロッテはさりげなく違う話題を振った。

「ヴァルト様の傷の痛みはいかがですか?」
「ああ、もう問題ない」

 顔をそらしながら言うジークヴァルトに、リーゼロッテはさみしそうな視線を向けた。今でも時折肩口を気にしたように押さえていることがある。まだ痛みや違和感が残っているのだろう。そう思うも、リーゼロッテは黙って頷いた。

 視線を感じると、ジークヴァルトが再び自分の口元をじっと見ている。なぜこんなにも口に固執するのだろうか? そこまで思ってリーゼロッテははっとした。

(もしやよだれを垂らしていたことがバレたのかしら……!?)

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