寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 寝室で看病をしていた時に、同じベッドで眠ってしまった。目が覚めた時に、唇がよだれでやたらとべたべたしていたのだ。誤魔化そうと思わず布団の中に潜り込んでしまったが、ジークヴァルトの寝具でこっそりそれをふき取った罪悪感も相まって、リーゼロッテは思わず涙目になった。

(馬車の中でもよく眠っちゃってたし、もしかしたら、いつもよだれを垂らしまくってたとか!?)

 だとすると一大事だ。さすがのジークヴァルトも、そんなことは指摘しにくいだろう。

「ヴァルト様、わたくしこれからは絶対に眠りませんからっ」

 半泣きで訴えると、ジークヴァルトの眉間のしわが深まった。ハンカチでそっと浮かんだ涙をふき取ってくる。見ると、それはリーゼロッテが誕生日に贈ったハンカチだった。

「あ……使ってくださっているのですね」

 中でもイニシャルを刺繍(ししゅう)しただけのハンカチだった。実用性を重視にしてよかったと、リーゼロッテはほっと息をついた。

「あの、大きく馬を刺繍したハンカチですが……」

 一緒に贈ったハンカチを思い出す。あれは刺繍がゴテゴテすぎて、ハンカチとしての機能は果たせそうにない物だ。それに、手渡した時のジークヴァルトのつらそうな表情が忘れられない。リーゼロッテは戸惑いながらも言葉を続けた。

「もしもお気にいらなかったら、あれは返していただいても……」
「なぜだ? オレはあれがいちばん気に入っている」

 そう言ってジークヴァルトは、どこからか小さな額縁(がくぶち)を持ってきた。そこにはリーゼロッテが刺した黒馬の刺繍のハンカチが入れられていた。

「……よくできている」

 愛おしそうにジークヴァルトは刺繍の馬を指でなぞった。伏せられた瞳は、いつになくやさしいものだ。

< 245 / 403 >

この作品をシェア

pagetop