寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 馬車の中、ガラガラと車輪が回る音が響く。リーゼロッテは隣に座るジークヴァルトの顔を伺った。
 今日は王城で夜会が行われる。ひと雨ごとに新緑が生い茂る、そんな時期に開催される王家主催の舞踏会だ。

「あの、ヴァルト様。今日はダンスを踊らなくても大丈夫ですので……」
「問題ない。最低でも二曲はお前と踊る」

 滅多に出られない舞踏会を、リーゼロッテはとても楽しみにしていた。そのことをジークヴァルトは知っている。まだ体がつらいならと、別に踊らなくても気にしないと伝えたかったが、今回も不発に終わってしまったようだ。

 二曲以上同じ相手と踊るのは、夫婦か婚約者だけだ。それが社交界での暗黙の了解だが、ジークヴァルトはその点に、やたらとこだわっているようだった。

「社交界でわたくしたちの婚約は、もう広く知れ渡ったでしょうから。やはり無理に踊ることもないと思いますわ」

 連れだって歩くだけでも、婚約者であることはアピールできるだろう。そう思って、今度はもう少し伝わりやすいように言ってみた。

「それでも踊る」
「わかりましたわ。ですがご無理はなさらないでくださいませね」
「ああ」

 そこで会話は終了した。

 ジークヴァルトが弱みを見せたくないと言うのなら、これ以上踏み込んでいくのはやめにした。この距離感でやっていくのがいちばんいいのだ。その結論に至って、最近では波風が立たないようにと、リーゼロッテはただ気を遣うだけの日々を送っていた。

 マテアスはやたらと自分たちをふたりきりにしようとする。しかし、顔を突き合せたところで、ジークヴァルトは眉間にしわを寄せて、難しい顔をするばかりだ。

 自分が口を開かなければ、会話が(はず)むこともない。もっとも、自分がしゃべったところで、ジークヴァルトは、ああ、だとか、そうか、だとか、そんな短い合いの手しか返してこない。最近では無理に話そうとはせずに、ゆっくりお茶を楽しむようにしているリーゼロッテだった。

 無言のまま、王城へと到着する。ジークヴァルトにエスコートされながら、リーゼロッテは(きら)びやかな夜会へと向かった。

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