寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
◇
誰もいない広々としたダンスフロアで、ハインリヒとアンネマリーがファーストダンスを踊っている。他には何も目に入らない様子で、ハインリヒはアンネマリーだけを熱く見つめている。
そんな様子に呆れつつも、カイは生温かい視線でふたりのダンスを見守っていた。
(まあ、白の夜会の時、アンネマリー嬢と踊るオレの事、射殺さんばかりに睨みつけていたもんな)
ようやく念願が叶ったのだ。ハインリヒの寵愛ぶりは、どこの社交場でも話題の的だ。孤高の王太子の氷を溶かしたアンネマリーは、社交界で一目置かれる存在となっていた。
ふと、フロアの向こうに、リーゼロッテがいるのが見えた。瞳を潤ませ、感極まった様子でふたりのダンスを目で追っている。そんなリーゼロッテと目が合うと、カイはひらひらと手を振った。
隣にいたジークヴァルトが、苛立ったようにリーゼロッテを引き寄せる。間髪置かないその行動がおかしすぎて、カイは思わずぷっとふき出した。
ダンスを終えたふたりが、王族用の壇上へと戻ってくる。今回はハインリヒの警護として夜会に参加しているカイは、すぐさまふたりの後方へと移動した。
周囲の人間の動きに注意を向けながら、カイは静かに控えていた。幾人もの貴族たちが、王太子であるハインリヒに挨拶をしにやって来る。あっという間に行列ができるのはいつものことだが、今はその横にアンネマリーがいる。夜会では常に不機嫌に沈んでいたハインリヒも、自信に満ちた表情で貴族たちの対応をしていた。
ざわめきと共に、先頭で待っていた貴族が後から来た者に順を譲った。訝し気に視線を向けると、そこに並び立つのは王族であるバルバナスと、ジークヴァルトの姉アデライーデだった。
王兄にして騎士団総司令の立場にいるバルバナスは、どこにいても横柄な態度をとることで有名だ。夜会などには滅多に顔を出さないが、貴族の間ではそれが常識となっていた。
「おう、仲良くやってるみたいだな」
「伯父上、ご無沙汰しております」
燃えるような赤毛に金色の瞳をしたバルバナスは、野性味あふれる視線で不躾にアンネマリーを見た。顔立ちはディートリヒ王に似ているのに、まるで雰囲気が違う。そんなバルバナスに、怖気づくことなくアンネマリーは堂々と挨拶を返した。
誰もいない広々としたダンスフロアで、ハインリヒとアンネマリーがファーストダンスを踊っている。他には何も目に入らない様子で、ハインリヒはアンネマリーだけを熱く見つめている。
そんな様子に呆れつつも、カイは生温かい視線でふたりのダンスを見守っていた。
(まあ、白の夜会の時、アンネマリー嬢と踊るオレの事、射殺さんばかりに睨みつけていたもんな)
ようやく念願が叶ったのだ。ハインリヒの寵愛ぶりは、どこの社交場でも話題の的だ。孤高の王太子の氷を溶かしたアンネマリーは、社交界で一目置かれる存在となっていた。
ふと、フロアの向こうに、リーゼロッテがいるのが見えた。瞳を潤ませ、感極まった様子でふたりのダンスを目で追っている。そんなリーゼロッテと目が合うと、カイはひらひらと手を振った。
隣にいたジークヴァルトが、苛立ったようにリーゼロッテを引き寄せる。間髪置かないその行動がおかしすぎて、カイは思わずぷっとふき出した。
ダンスを終えたふたりが、王族用の壇上へと戻ってくる。今回はハインリヒの警護として夜会に参加しているカイは、すぐさまふたりの後方へと移動した。
周囲の人間の動きに注意を向けながら、カイは静かに控えていた。幾人もの貴族たちが、王太子であるハインリヒに挨拶をしにやって来る。あっという間に行列ができるのはいつものことだが、今はその横にアンネマリーがいる。夜会では常に不機嫌に沈んでいたハインリヒも、自信に満ちた表情で貴族たちの対応をしていた。
ざわめきと共に、先頭で待っていた貴族が後から来た者に順を譲った。訝し気に視線を向けると、そこに並び立つのは王族であるバルバナスと、ジークヴァルトの姉アデライーデだった。
王兄にして騎士団総司令の立場にいるバルバナスは、どこにいても横柄な態度をとることで有名だ。夜会などには滅多に顔を出さないが、貴族の間ではそれが常識となっていた。
「おう、仲良くやってるみたいだな」
「伯父上、ご無沙汰しております」
燃えるような赤毛に金色の瞳をしたバルバナスは、野性味あふれる視線で不躾にアンネマリーを見た。顔立ちはディートリヒ王に似ているのに、まるで雰囲気が違う。そんなバルバナスに、怖気づくことなくアンネマリーは堂々と挨拶を返した。