寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あのフーゲンベルクの青い雷と呼ばれている方が、妖精姫の前では形なしなんですもの」
くすくすと笑い続けるヤスミンに、リーゼロッテは困ったような笑みを向けた。ジークヴァルトの突拍子なく思える言動は、それでいてきちんと理由がある。異形の者の存在や自分の秘めた力の事を、説明できないこの状況がもどかしく感じてしまう。
「先日の新年を祝う夜会でも、リーゼロッテ様はご自分のものだと、周囲に見せつけるようにしていらしたものね」
(あれは悪目立ちミッションのせいで……!)
アンネマリーに助けを求めるように視線を送るが、やはりおもしろそうな顔を返されただけだった。
「そう言えば、あの日ファーストダンスで王太子殿下と踊ってらしたご令嬢の正体は誰なの? わたくし、あの令嬢が王太子妃候補なのだと思っていたのよ。あなた、一緒に踊ったんだから名前くらいは聞いたのでしょう? いいからわたくしに教えなさい」
いきなりイザベラにそう言われ、リーゼロッテは口ごもってしまった。思わずアンネマリーの顔を見る。あの令嬢はカイが扮したものであると、アンネマリーは知っているのだろうか?
「彼女はイジドーラお義母様の遠縁にあたる方よ。カロリーネ様とおっしゃるの」
動じた様子もなくアンネマリーが代わりに答えた。小さくリーゼロッテに目配せを送って来る。
「ええ、カロリーネ様ですわ。ハスキーなお声が素敵な方でしたわ」
あの時のカイの様子に思わず吹き出しそうになる。涼しい顔をしているアンネマリーを見やり、リーゼロッテは笑いが漏れるのを何とかこらえた。
(王子殿下はアンネマリーに、すべて包み隠さずお話しされているのね)
先ほどのやり取りで、ふたりの強い絆を垣間見た。ゆるぎない信頼とあふれ出る愛情を目の当たりにして、リーゼロッテはそんなふたりを祝福すると同時にうらやましさも感じていた。
アンネマリーは今までのどの時よりも輝いて見える。自信に満ちているこの姿は、王子を愛し王子もまたアンネマリーを愛しているからなのだ。理想ともいえるふたりを前に、自分自身の立ち位置を思うとやるせない気分になってしまった。
自分はジークヴァルトにいつでも頼りきりだ。大きな力をもっているくせに、それを扱いきらないからと、そんな言い訳ばかりで何もできないでいる。
「それにしても、公爵様のあの完璧なまでの無表情はいつ拝顔しても眼福ですわ。リーゼロッテ様は王妃殿下のお茶会で、公爵様のことを怖がっていらしたけど、ずいぶんと親しくなられたようですわね」
からかうようなヤスミンの言葉に、意識を戻される。アンネマリーも同意するように、その口元に笑みを乗せた。
「そうね。公爵のひと睨みですくんでしまう人間も多いのに、最近のリーゼロッテはどこ吹く風だもの」
「ジークヴァルト様はおやさしい方ですわ。それに表情豊かで、とても分かりやすい性格をしていらっしゃいますし」
「公爵様が表情豊か……?」
ヤスミンだけでなくアンネマリーまで目を丸くしている。
「公爵様とリーゼロッテ様は、いつでも本当に仲睦まじくしていらっしゃいますから。きっとリーゼロッテ様だけにお見せになるお顔もあるのでしょうね」
エラの言葉にリーゼロッテの頬が上気する。あんなに分かりやすいのに、身内以外の人間にはあいかわらずの鉄面皮に見えるのか。
「そんなことを言って、自分は公爵様のすべてを分かった気でいるのかしら? なんておこがましい女なの」
イザベラはリーゼロッテを射殺さんばかりに睨みつけた。絶句した様子のエラに目配せして、気にしないようにと訴える。
くすくすと笑い続けるヤスミンに、リーゼロッテは困ったような笑みを向けた。ジークヴァルトの突拍子なく思える言動は、それでいてきちんと理由がある。異形の者の存在や自分の秘めた力の事を、説明できないこの状況がもどかしく感じてしまう。
「先日の新年を祝う夜会でも、リーゼロッテ様はご自分のものだと、周囲に見せつけるようにしていらしたものね」
(あれは悪目立ちミッションのせいで……!)
アンネマリーに助けを求めるように視線を送るが、やはりおもしろそうな顔を返されただけだった。
「そう言えば、あの日ファーストダンスで王太子殿下と踊ってらしたご令嬢の正体は誰なの? わたくし、あの令嬢が王太子妃候補なのだと思っていたのよ。あなた、一緒に踊ったんだから名前くらいは聞いたのでしょう? いいからわたくしに教えなさい」
いきなりイザベラにそう言われ、リーゼロッテは口ごもってしまった。思わずアンネマリーの顔を見る。あの令嬢はカイが扮したものであると、アンネマリーは知っているのだろうか?
「彼女はイジドーラお義母様の遠縁にあたる方よ。カロリーネ様とおっしゃるの」
動じた様子もなくアンネマリーが代わりに答えた。小さくリーゼロッテに目配せを送って来る。
「ええ、カロリーネ様ですわ。ハスキーなお声が素敵な方でしたわ」
あの時のカイの様子に思わず吹き出しそうになる。涼しい顔をしているアンネマリーを見やり、リーゼロッテは笑いが漏れるのを何とかこらえた。
(王子殿下はアンネマリーに、すべて包み隠さずお話しされているのね)
先ほどのやり取りで、ふたりの強い絆を垣間見た。ゆるぎない信頼とあふれ出る愛情を目の当たりにして、リーゼロッテはそんなふたりを祝福すると同時にうらやましさも感じていた。
アンネマリーは今までのどの時よりも輝いて見える。自信に満ちているこの姿は、王子を愛し王子もまたアンネマリーを愛しているからなのだ。理想ともいえるふたりを前に、自分自身の立ち位置を思うとやるせない気分になってしまった。
自分はジークヴァルトにいつでも頼りきりだ。大きな力をもっているくせに、それを扱いきらないからと、そんな言い訳ばかりで何もできないでいる。
「それにしても、公爵様のあの完璧なまでの無表情はいつ拝顔しても眼福ですわ。リーゼロッテ様は王妃殿下のお茶会で、公爵様のことを怖がっていらしたけど、ずいぶんと親しくなられたようですわね」
からかうようなヤスミンの言葉に、意識を戻される。アンネマリーも同意するように、その口元に笑みを乗せた。
「そうね。公爵のひと睨みですくんでしまう人間も多いのに、最近のリーゼロッテはどこ吹く風だもの」
「ジークヴァルト様はおやさしい方ですわ。それに表情豊かで、とても分かりやすい性格をしていらっしゃいますし」
「公爵様が表情豊か……?」
ヤスミンだけでなくアンネマリーまで目を丸くしている。
「公爵様とリーゼロッテ様は、いつでも本当に仲睦まじくしていらっしゃいますから。きっとリーゼロッテ様だけにお見せになるお顔もあるのでしょうね」
エラの言葉にリーゼロッテの頬が上気する。あんなに分かりやすいのに、身内以外の人間にはあいかわらずの鉄面皮に見えるのか。
「そんなことを言って、自分は公爵様のすべてを分かった気でいるのかしら? なんておこがましい女なの」
イザベラはリーゼロッテを射殺さんばかりに睨みつけた。絶句した様子のエラに目配せして、気にしないようにと訴える。