寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「マテアス、エマニュエルもよく聞きなさい。ディートリンデ奥様がご懐妊なさったことは先日告げたとおりだ。託宣の御子が奥様に宿った時点で、守護者はジークフリート様からその御子へと受け継がれる。それはお前たちも知っているね?」

 ふたりは同時に頷いた。マテアスは次期家令として、エマニュエルは公爵家の長女アデライーデの侍女となるべく、ものごころつく前から教育を受けている。まだ年端(としは)もいかぬ子供にもかかわらず、かなりの詰め込み教育がなされていた。

「フーゲンベルク家の当主となられるお方は、異形の者に狙われる宿命をお持ちだ」
「旦那様が『龍の(たて)』だから?」

 エマニュエルが問うと、エッカルトは深く頷いた。

「ああ、そうだ。今まではフリート様が龍の盾としてその役目を果たされていた。だが奥様が御子を身籠(みごも)られた今、その役割はその御子へと受け継がれた」
「じゃあ、今は御子様が異形に狙われているの?」
「その通りだ、マテアス。しかし、御子は奥様の胎内におられる。ゆえに現状、ディートリンデ奥様が異形に狙われていると言っていい」
「でも、守護者が守ってくれるのでしょう?」

 エマニュエルが小首をかしげると「本来ならばな」とエッカルトは難しい顔をした。

「本当に守護者は加護を(あら)わさないの……?」
 ロミルダが信じがたいといった表情でエッカルトを見やる。

「託宣の御子を宿してからというもの、ディートリンデ奥様は守護者の声が聞こえるようになられたそうだ」
「守護者の声が?」
「ああ、その守護者の話では、今までのように御子を守護することはできないと……」
「そんな……どうして」
「長きに渡るフーゲンベルクの歴史の中でも、今までこんなことはなかったようだ。フリート様が大旦那様にもご相談されている」

 前公爵であるジークベルトは、今は辺境伯として遠方の土地で暮らしている。歴代当主の中でもトップクラスの力を持つジークベルトに、何らかの知恵があることをエッカルトは期待していた。

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