寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 そんなある日、父親のジークフリートがジークヴァルトを連れ出した。異形対策も次第にこなれてきた時期だったので、周囲の緊張も昔ほどではなくなってきている。

 マテアスも付き従いながら、連れてこられたのは厩舎(きゅうしゃ)だった。美しい青毛の牝馬(ひんば)が目の前に現れる。ジークフリートに抱き上げられたまま、不思議そうにジークヴァルトはその黒馬を指さした。

「ちちうえ、おうま?」
「ああ、そうだ。あの馬はお爺様からの贈り物だ」
「ベルトおじいさまから?」

 ジークベルトは乗馬の達人としても名を()せている。今は辺境伯をしているが、息子のジークフリートに公爵位を譲る前は、フーゲンベルクを改めて国一番の馬の産地に仕上げた張本人でもあった。

「この馬はヴァルトのものだぞ。名前を付けてやらないとな。真っ黒いからシュバルツなんてどうだ?」
「しゃってん……シュバルツシャッテンがいいです、ちちうえ」
黒影号(シュバルツシャッテン)か。なかなかいい名前じゃないか。ヴァルトは可愛いリンデに似てセンスがあるな」

 うんうんと頷いている父親をしり目に、ジークヴァルトは腕の中、身を乗り出した。手を差し伸べると、黒影号は熱い鼻息とともに唇でやさしく()んでくる。

「なんだ? もう相思相愛か? よし、背に乗せてやろう。黒影号、ヴァルトひとりじゃ危ないから、悪いがオレも乗せてくれな?」

 黒影号は(くび)を持ち上げると、うれしそうに短くいなないた。

 ふたり乗り用の(くら)をつけて、ジークヴァルトは前に乗せられた。ジークフリートが手綱を握ると黒影号はゆっくり歩き出す。マテアスもあわてて自分の馬に乗り、追いつくころにはジークヴァルトたちは軽やかに走り出していた。

「どうだ、気持ちいいだろう? ああっと、ヴァルトはしゃべるんじゃないぞ。馬を走らせている時は舌を噛んじゃうからな」

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