寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 父エッカルトは力あるものとしても優秀だった。その血を受け継いだ身として、マテアスも力の扱い方を学び始めている。自分はジークヴァルトを守り支えていく立場なのだと思うと、足手まといにならないようにと訓練にも力が入った。

「このままじゃ面倒なことになりそうだなぁ。仕方ない、そろそろ帰るとするか」

 集まってきた周囲の異形の数に、黒影号の鼻先を屋敷へと向けた。脇をすり抜けながら、臆することなく黒影号は(たてがみ)を揺らして駆けていく。置いて行かれないようにと、マテアスは急いでそのあとを追った。

 前方を走る馬上で、ジークヴァルトは興奮気味の様子だ。途中、すぐそばの異形にヒヤリとさせられる。できる範囲で異形の者を追い払い、マテアスは必死について行った。

 やっとの思いで戻った厩舎(きゅうしゃ)では、ジークヴァルトが黒影号から降りるのを嫌がっていた。駄々をこねるように頭を振って、しがみついた馬の首筋を絶対に放そうとしない。

「おいおい、ヴァルト。シュバルツシャッテンも困ってるじゃないか。これからずっと一緒にいる相棒なんだ。今日はもうゆっくり休ませてやらないとな」

 父親に言われても、ふてくされたようにその手に力が入るだけだった。それでも無理やり引きはがされ、ジークフリートに抱き上げられてしまう。ぐずりながら、ジークヴァルトは黒影号に両手を伸ばした。応えるように顔を近づけてくる。柔らかな鼻づらをなでると、熱い鼻息が手のひらをくすぐった。

「なんだ? そんなに離れ(がた)いのか? できるだけ乗馬につきあってやりたいが、そうはいってもオレもなかなか時間がとれないしなぁ」

 お互いを(いつく)しむように見つめ合う息子と愛馬を前に、ジークフリートは困った顔をした。ジークヴァルトの護衛に()ける人材も限られている。怪我を負う危険が高い任務に、臆する者が出ているのも仕方のないことだ。忠誠を強要するには、この家は使用人を大事にしすぎていた。

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