寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 開けた高台に出ると、勢いをいなすように(ふち)に沿ってしばらく走らせた。頂上付近で馬の(あし)を止めさせると、ジークベルトは領地の街並みを見下ろしながら、いまだ動けないでいるジークヴァルトに静かに問うた。

「あそこにどれだけの(たみ)が暮らすか知っているか?」

 唐突な祖父の問いかけに、ジークヴァルトはマテアスに教えられたままの数を小さく答えた。その返事に頷くと、ジークベルトは再び問うてくる。

「公爵家の跡取りとして、お前がなすべきことは何かわかるか?」
「領民の暮らしを守ること……」

 いつの日か父に言われた通りに答えると、ジークベルトは「そうだ」と静かに頷いた。

「龍から受けた託宣が宿命だとするならば、領民を守ることはお前の義務だ。宿命からは何があっても逃げ出せぬ。だが、義務ならば手も抜けよう。さあ、ジークヴァルト、お前はどうする?」

 どうすると聞かれてジークヴァルトは困惑した。今までは周りに言われるがままだった。

「手を抜いたらどうなるのですか?」
「そうだな……最悪、あの街が血に濡れることもあるだろう」

 その言葉に唇が引き結ばれる。(くら)につけられた取っ手を握る指に、いたずらに力が入った。

「怖いか?」

 唇を震わせてジークヴァルトは小さく頷いた。その瞳から涙が溢れて落ちる。それに気づきながらも、いたずらに慰めることはしない。ジークベルトはただ眼下に広がる街並みを眺めやった。

「ならば強くなれ。シュバルツシャッテンが()ったのは、すべてお前の弱さゆえだ」

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