寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 五歳にも満たない孫に言い放つには、厳しすぎる言葉だった。みなに守られてジークヴァルトが甘やかされて育ってきたのは知っている。エッカルトから報告を受けるたび、思うところはたくさんあったが、引退した身で老害をさらすつもりは、ジークベルトにはさらさらなかった。

 託宣を果たし、公爵の地位も退(しりぞ)いた。最愛の妻に先立たれて、もはやジークベルトに生きていく意味などありはしない。だが、死に際の妻の最後の願いは、過酷な運命を背負わされたジークヴァルトの安寧(あんねい)だった。

「一刻も早く強くなれ」

 そして自分も妻と共に眠らせてほしい。そんな自分本位な本音を知ったならば、慕う者たちは一気に離れていくだろう。だが、それも託宣の(つがい)を持った男の宿命だ。

 一度だけ大きく頷いたジークヴァルトを見て、小さく笑みが漏れる。いずれこの孫も、かけがえのない相手と巡り合う。その時に生きるよろこびを知ればいい。

 (あぶみ)()り、ジークベルトは再び馬を走らせた。ジークヴァルトの涙が乾くまで、ふたりを乗せた馬は軽やかにどこまでも走り続けた。


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