寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 その日から、ジークヴァルトは部屋を移された。今までは父親の加護が厚い子供部屋にいたが、将来、公爵位を継いだ際に使われるべき部屋へと移動した。

「この部屋の壁には無数の守り石が埋めてある。死にたくなければ(おのれ)の手で力を()めろ」

 ジークベルトはそれ以降、ジークヴァルトに一切の護衛をつけさせなかった。自らがそばで付き添い、だが、異形に襲われてもぎりぎりまで手は差し伸べない。

 ディートリンデはこのことに猛抗議をした。いかに尊敬する義父であろうとも、母として容認できるはずもない。

「守護者が役に立たないのはこの子のせいではありません! このような危険な扱いはもうやめてください」
「役立たずなのはジークヴァルトの方だ。このまま一生ぬるま湯につけて育てるつもりか?」
「それは……そうかもしれませんが、ジークヴァルトはまだ子供です。もう少し大きくなってからでも……」

 ディートリンデのその言葉に、ジークベルトは自信ありげに不敵な笑みを返した。

「親馬鹿とはこんなにも目を曇らすものか。見よ。ジークヴァルトの力は底知れぬ。このオレさえも及ばぬかもしれぬぞ」
「そんな……お義父様がまさか……」

 ジークベルトの能力は歴代当主随一と(うた)われている。その天才を(しの)ぐ力が、このか弱い息子にあるとは到底思えない。

「お前たちは過保護に育てすぎだ。しばらくはオレがそばで見守ろう。何、悪いようにはせん」

 ジークベルトの一存で、ディートリンデもジークフリートの待つ辺境の砦に追いやられてしまった。そのまましばらく月日は巡る。


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