寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 ジークヴァルトの従者として、マテアスだけがそのそばで守ることを許された。だが、どんな危険な場面でも、ジークヴァルトは自らが前に立つようになった。自分が怪我を負ったとしても、周囲には傷ひとつ付けさせない。
 守るべき(あるじ)に守られて、黙っていられるマテアスではなかった。お互い引くことを知らず、ふたりは同時に強くなっていく。

 ちょっとした()り傷を負うだけで大泣きしていたジークヴァルトはもういない。五歳になるころには、どこにでも自由に出歩くようになった。異形が襲ってくれば、それをものともせず先陣を切って駆け抜ける。マテアスはそのたびにその背を必死に追いかけた。

 もともと口数の少なかった(あるじ)は、さらに無口になった。くるくると変わる表情も、今ではほとんど動くこともない。領地経営の勉強も剣術の稽古(けいこ)も、言われるがまま文句も言わずに黙々とこなしていく。そしてこのころから、ジークヴァルトはまるで物に執着しなくなった。

 ここまで来ると、祖父のジークベルトは辺境の砦へと帰ってしまった。入れかわりで両親が領地に戻ってくる。ジークヴァルトの変貌(へんぼう)ぶりに、ふたりはただ驚いた。ジークベルトの方針に従って、その後もジークヴァルトは過ごすこととなる。


 六歳の秋になって、ジークヴァルトは龍が決めた託宣の相手に会いに行った。父ジークフリートに連れられて、ラウエンシュタインの城へ向かう後ろ姿を、マテアスは屋敷で見送った。

 数日後、帰ってきたジークヴァルトは、いつになくぼんやりしている様子だった。相変わらずやるべきことは黙々とこなしているが、自室にいるときは、じっと婚約者の肖像画を見上げることが多くなった。


 月日は流れ、十五の年にジークヴァルトは公爵位を継いだ。退(しりぞ)いたジークフリートは、そのまま辺境伯の地位に()く。ジークベルトが急逝(きゅうせい)したのは、それからひと月も経たない日のことだった。

 役目を終えるのを待っていたかのように、ジークベルトはあっさりと()ってしまった。屈強だった生前の姿を思い、誰もが涙に暮れた。そして、託宣の存在を知る者だけが、同時に納得したものだ。
 託宣の相手を失った者は、そのほとんどが追うように命尽きる。これまで孤独に耐えたジークベルトの強さを、みな誇らしく思った。


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