寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「そんな、友達だなんて恐れ多い」
「そんなふうにおっしゃらないで。ここでは侍女ではなく、わたくしのお話し相手として過ごしてくださいませんか? ジークヴァルト様にもそうお願いしておきますから。エラもそのつもりでいてちょうだい」
「承知いたしました、お嬢様」

 無理やりに納得させて、リーゼロッテは名で呼んでほしいともう一度ルチアに声をかけた。

「わかりました……リーゼロッテ様」

 消え入りそうな声にリーゼロッテは笑顔を向ける。それを見たルチアが、また顔を赤くした。

「ブルーメ領から馬車で来られてお疲れになったでしょう? 今日はまずゆっくりお休みになってくださいませね。ねえ、エラ。ルチア様のお世話もお願いできるかしら」
「あ、いえ、あの、ブルーメ家が侍女をひとりつけてくれたので」
「そう? でもその侍女も勝手がわからないと困るだろうから、何かあったらエラかわたくしに遠慮なくおっしゃってね?」
「それには及びませんよぅ」

 突然割り込んだ声に、リーゼロッテとエラは同時に声を上げた。

「「ベッティ!?」」
「ご無沙汰しておりますぅ。今回はルチア様付きの侍女としてお世話になりにまいりましたぁ」

 いつの間にいたのか、壁際でベッティはぺこりと頭を下げた。彼女はカイの腹違いの妹だ。だが貴族社会になじめずに、侍女としてあちこちの家に行っては懸命に働いている。
 リーゼロッテはそう思っているのだが、その実ベッティはカイの子飼いの諜報員(ちょうほういん)だった。他家に潜入しては、あれこれと情報を集めるのがベッティの真の役割だ。

「え? あなたここにいたことがあるの?」
「はいぃ、ブルーメ家で雇われるまではこちらにお勤めしておりましたのでぇ。そんなわけでルチア様はご安心してお過ごしくださいませねぇ」

 驚き顔のルチアは、ベッティの事をただの侍女と思っていたのだろう。ベッティは本来なら侯爵令嬢の立場であるが、口調と所作を見る限りルチアの方がよほど令嬢らしく見えた。

「それにリーゼロッテ様は妖精姫と呼ばれるほど可憐でおやさしい方ですのでぇ、なぁあんの心配もございませんよぅ」
「ベッティ、その名は恥ずかしいからやめてちょうだい」

 困ったように頬を染めたリーゼロッテを前に、「ほぅら、超絶可憐でしょうぅ?」とベッティはルチアに笑いかけた。

「本当に……」

 感嘆交じりに返事をしたルチアを見て、リーゼロッテの頬はますます赤く染まった。

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