寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「やだ、やめて! 体は見られたくないのっ」
「そこまでお嫌ですかぁ? このベッティ、口は堅い方でしてぇ、見聞きしたものを他言するようなことはございませんよぉう」
「それでもいやよ」

 頑なにルチアは身を守るように縮こまった。

「ふぅわかりましたぁ。でも最後にひとつだけお聞きになってくださいますかぁ? こう見えてわたしは王妃殿下のもとで働いたこともある、超絶ひっぱりだこな人気侍女なんですぅ。その世話を受けないなんて、ルチア様はとんだ機会損失をなさってること、覚えておいてくださいましねぇ」
「何よそれ」

 ルチアがおかしそうにぷっと噴き出した。

「嘘ではございませんよぅ。ベッティはアンネマリー王太子妃殿下のお背中をお流ししたこともあるんですからぁ」
「王太子妃様の? そんなの信じられないわ」
「では明日、リーゼロッテ様にお聞きになってはいかがでしょうぅ? リーゼロッテ様はアンネマリー様と従姉妹(いとこ)同士でいらっしゃいますからぁ」
「お姫様と従姉妹……? そんな、わたしますます場違いなんじゃ……」

 青ざめたルチアにベッティはうんうんと頷いている。

「ルチア様は平民から高貴な貴族令嬢に! わぁぁあ、物語のヒロインみたいで超絶夢のようですねぇ」
「あなた、全然うらやましがってないでしょう?」
「はいぃ、ぶっちゃけちっともうらやましくありませんのでぇ」
「もう、何よそれ」

 呆れたように言って、ルチアは仕方ないといったように笑顔を見せた。

「ルチア様は笑っていらっしゃる方がよろしいですねぇ」
「笑わせたのはあなたじゃない」
「仕える主人を笑顔にするのも侍女の役割ですよぉう。さぁ、もう覗いたりはいたしませんから湯殿(ゆどの)へ行ってくださいましぃ」

 浴室の扉を開け、促すように手を引いた。

「ほんっとうに覗かないでね!」
「このベッティ、主人の言いつけは絶対に守りますよぅ。侍女の仕事は信用第一ですからぁ。あ、中に呼び鈴を鳴らす(ひも)がございますのでぇ、ご用がありましたら何なりとお申し付けくださいましねぇ」
「絶っ対に呼ばないから、あなたはそこでゆっくりしてて」

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