寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「行くのも招くのも事前に準備が必要だなんて。ほんとお貴族様って面倒くさい」
「礼儀のひとつでございますよ。それにルチア様、随分と言葉が乱れておいでです」
「あ、もう……こんなふうに話さなくてはならないなんて、わたくしいつも舌を噛みそうですわ」

 エラにも多少は覚えがあることなので、苦笑いしつつもアドバイスを送る。

「慣れるまでは簡単な言葉だけを選んで、ゆっくりとお話しになるといいですよ」
「ゆっくりと?」
「はい、ゆっくりと。こう言ったらなんですが、貴族女性はそれほど頭の良さを求められておりません。夜会などでよくわからない話を振られたら、とりあえず笑ってやり過ごすのがコツです」
「まるでお人形扱いね」

 呆れたようなルチアに、エラはその通りだと思って反論することもしなかった。

「でも、そうね……ゆっくりとなら案外いけるかも」

 つぶやくように言ってから、ルチアはにっこりと笑顔を作った。

「エラ様。わたくし、夜会では、あまり口を開かないように、しようかと思います。そうすれば、ボロがでにくいと、エラ様はおっしゃりたいの、ですわよね? このしゃべり方は、どこも、おかしくは、ないですか?」
「お言葉選びを間違えなければ、問題ないかと」
「なら、よかったですわ。リーゼロッテ様の口調を、頑張って、真似しようとしても、なんだか、余計に、変になって、しまうんですもの」

 そう言ってルチアはほっと息をつく。

「ルチア様の所作は、どこに出ても恥ずかしくないほどの淑女ぶりです。ブルーメ子爵のおそばを離れなければ、夜会でも心配なことはありませんよ」
「だと、いいのですが。でも、わたくしは気を抜くと、すぐに元に戻って、しまう、しまいます。リーゼロッテ様みたいに、あたり前に、できないのです」

 それこそリーゼロッテは、ただ立って座るという行為だけでも、容易に人の視線を()きつける。紅茶を飲む仕草ですら、完成された芸術作品を目にしているかのようだ。

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