寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「はぁ、貴族って本当に面倒くさい……」

 その独り言を聞き(のが)したふりをして、エラは黙ってルチアを見つめていた。彼女の苦労はこれからもずっと続くのだろう。

 エラ自身、貴族とは面倒なものだと思っている。夜会でリーゼロッテをそばで見守りたいが、招かれてもいないのに勝手についていくわけにもいかなかった。

(せめて侍女として夜会の控室まで行けたらよかったのに……)

 男爵令嬢という立場からそれも遠慮するようにと、マテアスから言われてしまった。それなのに爵位のないただの侍女はついていけるのだ。納得はいかないが、他家の人間が勝手に入り込むことをよしとしない貴族は多い。

(もっとも夜会について行ったところで、わたしは何の役にも立たないのだけれど)

 低爵位の身では、貴族同士の意地の張り合いからリーゼロッテを守ることは難しい。イザベラのような人間が現れても、自分は黙ってただ耐えるしかない。言い負かす自信はあるが、それをやってしまうと不敬罪に問われて、結局はリーゼロッテに迷惑がかかってしまう。

 心ない(やから)を相手にするのは、よほどリーゼロッテの方が上手にかわしていた。そう思えて自分でも情けなくなってくる。

「ルチア様。人にはそれぞれ立場というものがございます。身分相応なふるまいをしてこそ、その役割を果たせるというものです」

 その言葉を、エラは自身に向けて言った。

「でも、わたくし、好きで、今この立場に、いるわけではない、ですわ」
「そうだとしても、ですよ」

 きっとこの少女は、自分の出自(しゅつじ)を知らないのだろう。王族の血を引く者として国の監視下に置かれることは、一生涯(のが)れられないことだ。

(でも、わたしは違う――)

 エラは改めて決意する。父が爵位を返上したら、一平民としてリーゼロッテに尽くしていこう。

 潤沢(じゅんたく)な資産を持つエデラー男爵家に近づくために、エラに求婚してくる貴族は少なくない。父に頼んで絶対に受けないようにと言ってはあるが、それが高い爵位の者だった場合、断り切れない事態もあり得るのだ。そんなことになっては、リーゼロッテのそばにはいられなくなってしまう。

 貴族という立場に縛られずに、リーゼロッテの事だけを思って生きていく。それはなんと満たされた日々だろうか。

(早くその日がくればいいのに……)

 不満そうに唇を尖らせているルチアを前に、エラはそんなことを考えていた。

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