寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「「「「「よろしくお願いしまぁすっ!」」」」」

 公爵家の廊下に男たちの声が響く。エラの前にずらりと並び、思い思いの花を持つ。みな頭を下げながら、エラの答えを待っていた。

 公爵家でここ最近、頻繁に見られるようになった風景を、周囲の者は好奇の目で見守っていた。未婚の男がエラに求婚するというのが、今、公爵家の間で大流行(おおはや)りとなっている。「エラチャレンジ」と呼ばれるようになったこのイベントは、過熱の一途をたどっていた。

 発端(ほったん)は子爵家の跡取りであるヨハンがエラにフラれたことだ。エラは貴族籍を抜けて、いずれ平民になるらしい。その噂は(またた)()に広まって、自分たちにもチャンスがあるのではと、使用人の男たちがこぞってエラに迫り出して今に至る。

「今日は厩舎(きゅうしゃ)の奴ららしいよ」
「午後の部は庭師たちがいくらしいぜ」

 エラに過度な迷惑はかけないようにと、働く部署ごとにくじを引き、順番にプロポーズをしているという徹底ぶりだ。日に二度三度と行われるこのエラチャレンジは、日常でよく見る光景となりつつあった。

「やだ、あんたの彼氏、あそこにまざってない?」
「いいのよ、どうせフラれるんだから。一生の記念にしたいって言うから、(こころよ)く送り出してやったわ」
「それならわたしも思い出作りにチャレンジしてこようかしら」
「オレもかみさんさえいなければ……」
「それはこっちの台詞よ。もう少し出会うのが早かったら、絶対にあんたよりエラ様を選んでるわ」

 そんな会話がそこここで繰り広げられている。
 そうこうしているうちに、エラがいつも通り断りの文句を告げた。

「ごめんなさい。お気持ちはうれしいですが、みなさんにお応えすることはできません」

 エラが頭を下げると、男たちはうれしそうに礼を言って、手にした花を放り投げつつ去っていく。ここまでがエラチャレンジのお約束だ。

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