寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 その場から離れていくエラの背を見つめ、使用人たちのおしゃべりは果てなく続く。

「エラ様もいちいち付き合ってくれて、ホントおやさしいよな」
「そんなエラ様に惚れ直しちゃう」
「それにしても、誰かがエラ様を落とす日はくるんだろうか……」
「いつまでもみんなのエラ様でいてほしいなぁ」
「んん? 何の話?」

 途中から現れた男を、一同は呆れたように見やる。

「お前、本当に他人に興味ないよな。せめてエラ様のことくらい知っておけよ」
「やだなぁ、エラ様の事なら知ってるよ。ヨハン様に求婚されたんだろう? エラ様も子爵夫人かぁ。玉の輿だねぇ」

 うんうんと頷く男に、周囲はため息をついた。一体いつの話だ。しかも一部内容が間違っている。誰もがそう突っ込もうとした時、背後から威圧するように声がかけられた。

「エラがヨハンの求婚を受けただと?」
「ええっグレーデン様ぁあ!?」

 振り向くと、そこにはエーミールが立っていた。問題発言をした男の肩をぎりりと掴み、鬼の形相で睨みつけている。

 彼らを路傍(ろぼう)の石くらいにしか思っていないエーミールが、使用人に話しかけることなどあり得ない。おしゃべりに興じているところを睨まれて、慌てて仕事に戻るというのがせいぜいだ。

「えっと、あの、その……」

 間近でイケメン貴公子に(すご)まれて、男は見惚れたように間抜け(づら)をした。忌々(いまいま)しそうに舌打ちをして、エーミールは突き飛ばすように男の肩から手を離す。そのまま(きびす)を返して離れていく背を、みなはあっけにとられて見送った。

「……あれ、完全に誤解してないか?」
「いや、これでグレーデン様が動くかも」
「やばっ今からでもエーミール様に賭けてこようかな」

 この出来事は公爵家内に、電光石火で広まっていくのだった。

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