寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 傷ついたような顔をして、エラはエーミールを見上げてくる。そのことにさらに苛立って、エーミールは容赦(ようしゃ)なく掴む手に力を入れた。
 痛みで表情が(ゆが)んでも、緩めることはしなかった。これはひどい裏切りだ。そんな思いだけが、(とど)まることを知らず(あふ)れ出る。

「だったらヨハンでなくてもいいだろう? このわたしがエラを(めと)ってやる。どうだ。これであなたは侯爵家の一員だ」
「な、何をおっしゃっているのですか……?」
「とぼけるな! ヨハンに求婚されて舞い上がっているのだろう? まんまと子爵夫人の地位を手に入れたと」

 はっとしてエラは信じられないものを見るような顔つきになった。そんな顔をしても逃がさない。エーミールはさらにエラを強く引き寄せた。

「侯爵家の人間とはいえ、爵位がないと受け入れられないと言うのか? あなたがそんなあさましい女だったとはな」
「何を馬鹿なことを……。エーミール様は本気でわたしを妻に迎えられるとでも思っていらっしゃるのですか?」

 その言葉にエラの顔を見る。すぐそこにあるとび色の瞳は、不信感をあらわにしていた。

「ヨハン様の求婚はきちんとお断りいたしました。わたしは誰とも結婚する気はありません。エーミール様、あなたであったとしても!」
「なっ……!?」

 エラがエーミールの腕を振り払おうとする。かっとなってエーミールは拘束する手をさらにきつく締めあげた。

「離してください! エーミール様はウルリーケ様に逆らえると言うのですか!? グレーデン家に(そむ)き、わたしを娶るなどできるはずもないでしょう?」

 ぐっと言葉に詰まったエーミールは、それでもエラから手を離すことはできなかった。

「それとも何ですか? エーミール様はわたしを愛人にでもなさるおつもりですか!」

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