寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「やはりお前がいちばん()()に似ているな」
「そりゃ母子(おやこ)ですから」
「ジルヴェスターは瞳が似ておると思うて産ませたが……カイ、お前の前ではくだらぬ(まが)い物よ」

 顎に手を当て顔を上向かせる。恍惚とした表情のままデルプフェルト侯爵は、さらに頬に指を滑らせた。

「そうだ。この色だ。(いにしえ)から生れ出た琥珀の瞳。燃え尽きた灰の髪……。カイ、なぜお前は髪を伸ばさぬか」

 唐突に問うてくる。だがこの質問も毎度のことだった。

「長い髪は任務の邪魔です」
「つまらぬな」

 そう言いながらも愛おしそうに黒の瞳を細めてくる。この男にとって子供たちは、飾り置くためのコレクションに過ぎない。気に入った色彩の女を(はら)ませて、生まれた子供を引き取っては近くに(はべ)らせているというわけだ。
 屋敷に住まわせるのは子供たちだけだった。手を出した女たちは住む場所を別に与えて、それぞれきちんと面倒を見ている。それが唯一の救いと言えるだろうか。

 この男の瞳には、どのみち狂気が宿っている。理解できるとは思えないし、そうしたいとも到底思えない。歪んだ寵愛(ちょうあい)を欲する兄弟の多くは、この男にすっかり毒されてしまっている。それが哀れに思えてならなかった。

「先の夜会で女になったであろう? 今宵はあれをせぬか?」
「ご冗談を。任務以外で女装するほど、オレも酔狂(すいきょう)ではありませんよ」
「冗談なものか。お前を愛でるのも此れ切りかも知れぬであろう?」

 心ない言葉を平然と口にするのは、この男に心がないからだろうと本気で思う。それをものともしないカイ自身も、結局のところ同じ穴の(むじな)だ。

「それにお前は年々男になりよる」
「それはまぁ、男ですから」
「まったくもってつまらぬ」

 裏腹に口元に薄く笑みを()く。常人(じょうじん)には感じ得ないうすら寒さがそこにはあった。

< 335 / 403 >

この作品をシェア

pagetop