寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「エリザベスでございます」
 声掛けと共に控えめなノックがなされる。入れとだけ言われ、扉を開けたのはベッティだった。

「お召しにより参上いたしました」

 緊張した面持ちで侯爵の前で礼を取る。ベッティはこの男の危うさに、初対面の折に速攻で距離をとった口だ。あれは賢明な判断だったとカイは今でも思っている。

「なんだ、エリザベス、毛を染めておるのか?」
「恐れながら任務中でありますれば。あの色は目立ちすぎます」
「つまらぬな」

 興味を失ったように、侯爵は邪魔そうに手を振った。

「もうよい、下がれ」
「恐れながら、デルプフェルト侯爵様。本日の夜会の客人であるブルーメ子爵令嬢がご挨拶にお見えです」
「ならば通せ」

 すっと仕事仕様の表情になると、侯爵は鷹揚(おうよう)に頷いた。一度サロンを出たベッティが、ほどなくしてルチアを連れて戻ってくる。

「侯爵様、この方にございます」
「あ、あの……デルプフェルト侯爵様、お初にお目にかかります、ルチア・ブルーメと申します。お見知りおきのほどを」

 緊張しながらもルチアは綺麗な礼を取った。侯爵は無言でその姿を上から下まで眺め、しばらくののちにぼそりと言った。

「瞳の金が強すぎる……趣味ではないな」

 そのつぶやきにカイが珍しくあからさまに嫌な顔をした。気に入ったなら、ルチアに手を出そうとでも思っていたのだろう。開いた口もふさがらない。

「では、用件は済みましたね。父上は夜会の支度もあるでしょうから、オレたちはこれで失礼します」

 当たり前のようにカイはルチアの手を取ると、そのままサロンを出ていった。ベッティも静かにその背を追っていく。頬杖をついたまま侯爵は、(とが)めるでもなく無言で三人を見送った。

「カイよ、それでもまだ愚直に生きるというのか……」

 (こら)えきれないようにひそかな笑みが、その口から洩れて出る。

「あれと同じで、随分と楽しませてくれよるわ」

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