寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「はぁ、緊張した……」
 少し進んだところでルチアは力が抜けたようにつぶやいた。

「命拾いしたね、ルチア」
「本当にぃ」
「えっ、そんなになの!?」

 しみじみと言うふたりに、ルチアは驚いたように顔を上げた。

「はは、それはさておき、ルチアもすっかり令嬢らしくなったね」
「だってそれは、母さんがいろいろと教えてくれていたから……」

 再び俯いてルチアは小さな声で答える。いずれルチアが貴族社会に行かざるを得ないことを、母のアニサは承知していたのかもしれない。誰であろうと龍からは逃れることは不可能だ。イグナーツが養子縁組に異議を申し立てなかったのも、それを分かってのことだろう。
 そんなことを思ってルチアを静かに見つめていたカイに、ベッティがこそりと話しかけてきた。

「それにしてもカイ坊ちゃま。ルチア様には龍のあざが……」
「ああ、ベッティも見たんだ? よくルチアが許したね」
「そこはそれ、どうにでもやりようはございますのでぇ」

 悪い顔になった後、ベッティは胡乱気(うろんげ)な視線を向けてくる。

「それよりもカイ坊ちゃまですぅ。一体どうやってアレを確認なさったのですかぁ?」
「はは、そこはそれ、どうにでもやりようがあるでしょ」

 こそこそと言い合うふたりに、ルチアが不思議そうな顔をする。そんなルチアに、カイはわざとらしいくらいに明るい声をかけた。

「何にせよ、どうせ逃げ出せないなら楽しまないとね?」
「何よそれ」
「いいからいいから」

 (いぶか)しげな顔のルチアの肩に手を回して、会場へと連れていく。夜会が始まるのは陽が沈んでからなので、今は使用人たちが準備に追われて走り回っていた。だがカイの姿を認めると、みな礼を取ってさっといなくなってしまった。

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