寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「さあ、貸し切りだよ」
ルチアに手を差し伸べて目の前で腰を折る。
「ルチア嬢、オレと踊っていただけますか?」
「え? いやよ。わたしデビュー前だから、今日は踊らなくっていいってブルーメ子爵に……」
「大丈夫、大丈夫。見てる人間なんていないから、ルチアがへんてこな踊りをしても誰も笑わないよ」
強引に手を引いてダンスフロアの中央へと連れていく。
「オレの動きに合わせるだけでいいから」
「へんてこって何よ! お姫様のステップならちゃんと母さんに教えてもらったもの」
「じゃあ、お手並み拝見」
目配せを送ると、ベッティはピアノの鍵盤に指を滑らせた。軽快なワルツが奏でられていく。
カイにリードされるまま、ルチアはフロア中を動き回った。幼いころに懸命に覚えたステップが、考える前に自然と出てくる。しかしこんな広い場所で誰かと踊るのは初めてだ。戸惑いながらもなんとかルチアは、カイの動きについていった。
「ホントだ。なかなか上手だね」
そう言いながら、さりげなく危うげな動きをフォローする。貴族女性にもダンスが苦手な者は少なからずいるので、それを思うとルチアは十分様になっていた。
(これならそれほど心配することもなかったかな)
貴族女性特有の舌戦は、数をこなして慣れてもらうしかない。そのためにリーゼロッテに近づけた。彼女と親しくすれば、表立って攻撃する者もそうはいないだろう。
ルチアの容姿はどうあっても王族を思わせる。第三王女と姉妹と言ってもおかしくないことを鑑みると、それはなおさらのことだった。
(ピッパ様が社交界に出るのは四年後か……)
ふと思ってカイは苦笑いをした。今朝ハインリヒに言われたことが頭をよぎる。こんなにもルチアに肩入れする自分は、確かにらしくはないだろう。なんだかそれが無性に可笑しく思えてきた。
(四年後、ルチアが生きているかも分からないのに――)
龍からリシルの託宣名を受けた者。それがルチアだ。目の前にいる少女は、いずれ異形の者に殺められる。それは生まれながらに決まってしまっていることだ。
――だがそれは自分とて同じこと
カイ自身、四年後にまだこの世に存在するかは定かでない。
「カイ?」
押し黙ったまま見つめるカイを、ルチアは不安そうに見上げてくる。腰を支えてターンをしながら、カイは小さな笑みをルチアへと向けた。
「どうせ逃げ出せないんだ。最期までとことん楽しまないと、ね?」
そのつぶやきに、ルチアはただ困った顔を返すだけだった。
ルチアに手を差し伸べて目の前で腰を折る。
「ルチア嬢、オレと踊っていただけますか?」
「え? いやよ。わたしデビュー前だから、今日は踊らなくっていいってブルーメ子爵に……」
「大丈夫、大丈夫。見てる人間なんていないから、ルチアがへんてこな踊りをしても誰も笑わないよ」
強引に手を引いてダンスフロアの中央へと連れていく。
「オレの動きに合わせるだけでいいから」
「へんてこって何よ! お姫様のステップならちゃんと母さんに教えてもらったもの」
「じゃあ、お手並み拝見」
目配せを送ると、ベッティはピアノの鍵盤に指を滑らせた。軽快なワルツが奏でられていく。
カイにリードされるまま、ルチアはフロア中を動き回った。幼いころに懸命に覚えたステップが、考える前に自然と出てくる。しかしこんな広い場所で誰かと踊るのは初めてだ。戸惑いながらもなんとかルチアは、カイの動きについていった。
「ホントだ。なかなか上手だね」
そう言いながら、さりげなく危うげな動きをフォローする。貴族女性にもダンスが苦手な者は少なからずいるので、それを思うとルチアは十分様になっていた。
(これならそれほど心配することもなかったかな)
貴族女性特有の舌戦は、数をこなして慣れてもらうしかない。そのためにリーゼロッテに近づけた。彼女と親しくすれば、表立って攻撃する者もそうはいないだろう。
ルチアの容姿はどうあっても王族を思わせる。第三王女と姉妹と言ってもおかしくないことを鑑みると、それはなおさらのことだった。
(ピッパ様が社交界に出るのは四年後か……)
ふと思ってカイは苦笑いをした。今朝ハインリヒに言われたことが頭をよぎる。こんなにもルチアに肩入れする自分は、確かにらしくはないだろう。なんだかそれが無性に可笑しく思えてきた。
(四年後、ルチアが生きているかも分からないのに――)
龍からリシルの託宣名を受けた者。それがルチアだ。目の前にいる少女は、いずれ異形の者に殺められる。それは生まれながらに決まってしまっていることだ。
――だがそれは自分とて同じこと
カイ自身、四年後にまだこの世に存在するかは定かでない。
「カイ?」
押し黙ったまま見つめるカイを、ルチアは不安そうに見上げてくる。腰を支えてターンをしながら、カイは小さな笑みをルチアへと向けた。
「どうせ逃げ出せないんだ。最期までとことん楽しまないと、ね?」
そのつぶやきに、ルチアはただ困った顔を返すだけだった。