寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「お初にお目にかかります、ルチア・ブルーメでございます……」

 ぶつぶつと同じ台詞を何度も何度も復唱する。これさえ丸暗記しておけば、無事に乗り切れるだろうというエラからの進言だ。

「緊張しているのかね?」

 義父となったブルーメ子爵に問われて、ルチアは小さく頷き同意を示した。

「それは奇遇であるな。わしも極度に緊張しておるのだよ、うん」

 頼れるのは義父だけだというのに、なんとも情けない返事が返ってくる。このブルーメ子爵は言葉こそ古めかしいが、ふくよかな容貌をしていて実に温厚そうな人物だ。

 ルチアが初めてブルーメ家へ連れていかれた時、子爵は咲き乱れる花の中に埋もれていた。庭師を紹介されたと思ったのに、土にまみれていたのは紛れもなく義父となるこの男だった。
 開口一番、好きな花は何かと問われた。赤いプリムラだと答えると、翌日には庭の一角にプリムラがたくさん植えられていた。今はまだ花芽はついていないが、満開になったらさぞや色鮮やかな美しい庭になることだろう。

「子爵様は、わたしが……わたくしが迷惑ではなかったのですか?」
「お義父様と呼びなさい、うん。迷惑だとは思っておらぬでな、安心するといい」

 子爵はどこか遠い目で言う。

「ブルーメ家はイグナーツ様の支援で潤っているのでな。わしがのんびりと庭いじりができるのも、実はイグナーツ様のおかげであるのだ、うん」
「イグナーツ様とは従兄弟(いとこ)だって聞きました」
「そうであるな。だが彼は公爵家のお方となった。子爵家にとっては殿上人(てんじょうびと)よの、うん」
「えっ、イグナーツ様ってそんなに偉い人だったの!? ……ですか?」
「まあ、そういうことであるからして、わしとしても彼の希望を無下(むげ)にはできぬのだよ、うん」

 それならば納得もいく。いきなり孤児を貴族として迎え入れるなど、正気の沙汰ではないとルチアはずっと思っていた。

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