寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 並べ置かれた菓子を勧められて、リーゼロッテはイザベラと共にそれを口に運んだ。

「ふふ、本当。とても美味しいですわ」
「デルプフェルト家もなかなかのものね」

 イザベラとこんな友人同士のような会話をしていることが、何だかとても不思議に思えた。先日の彼女の涙が目に焼きついて、それを思い出すと今でも胸が痛くなる。それなのに平気そうに見えるイザベラは、もうジークヴァルトへの思いを断ち切ったということだろうか?

「リーゼロッテ様は、公爵様のお姉様と懇意にされているのよね?」
「はい、とてもよくしていただいておりますわ」

 突然の問いかけに戸惑いながらも答えを返す。やはりイザベラはジークヴァルトに未練があるのかもしれない。受け答えは慎重にしなければと、リーゼロッテは再び身構えた。

「ねえ、だったらニコラウスお兄様をお姉様に勧めてもらえないかしら?」
「ニコラウス様を? アデライーデお姉様に勧める?」
「そうよ。わたくしもう、公爵夫人の座はあきらめたわ。こうなったらお兄様を公爵の地位に就けようと思って」
「公爵の地位にニコラウス様を?」
「ええ、お姉様と結婚すれば、お兄様が公爵になって当然でしょう?」

 唖然となってリーゼロッテは一度口を閉じた。反芻(はんすう)するようにイザベラの言葉を組み立てる。
(アデライーデ様とニコラウス様が結婚して、ニコラウス様を公爵にするってこと……?)

 イザベラは一体何を言っているのだろう。公爵の地位にはすでにジークヴァルトが就いている。その姉であるアデライーデの伴侶に、それを(くつがえ)す権利はあるのだろうか?
 いや、そんなことよりも、もっと大事なことがあるはずだ。そう思ってリーゼロッテは、恐る恐るイザベラへと問いかけた。

「……あの、イザベラ様は、ジークヴァルト様のことを、その、お慕いしていたのではないのですか?」
「よしてよ、あんな目つきの悪い陰気な男。公爵でなかったら、わたくしが相手になどするわけないじゃない」

 即答したイザベラに目を見開く。確かに目つきは悪いかもしれないが、決して陰気ではないと訴えたい。

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