寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
(いえ、そうではなくて)

「でしたら……イザベラ様はどうして公爵家にこだわっていらっしゃるのですか?」

 努力家のイザベラを見ると、贅沢がしたくてその地位が欲しいようにも思えない。困惑したまま問うと、イザベラは拗ねた子供のような表情になった。

「だって、わたくしのお父様はこの国の宰相なのよ? それなのに伯爵の地位だからって、多くの貴族たちに軽んじられすぎているわ。わたくしかお兄様が公爵家の縁故になれば、そういう失礼な(やから)を黙らせられるじゃない」
「……イザベラ様はお父様がお好きでいらっしゃいますのね」
「当然でしょう? だってあんなに格好良い男の方は、探してもどこにもいらっしゃらないわ」

 頬を染めながら唇を尖らせたイザベラは、まるで恋をする少女のようだった。リーゼロッテはその様子がどうしようもなく可愛らしく思えて、くすくすと笑ってしまった。

「何笑っていらっしゃるの。失礼な方ね」
「ごめんなさい、イザベラ様がとても可愛らしくて」
「だって仕方ないでしょう? 本当に格好良いんだもの。ニコラウスお兄様もお顔だけなら満点なのに。何よ、分かってるわよ。家族とは結婚できないことくらいちゃんと知ってるわ」

 つんと顔を逸らすとイザベラの縦ロールがビヨンと揺れる。それを無意識で目で追っていると、イザベラがふいに真剣な目を向けてきた。

「ねえ、悪いことは言わないから、あなたも公爵様との婚約を早いとこ破棄なさいな。リーゼロッテ様のご実家は公爵家なのでしょう? 諦めなければどうとでもなるわ」

 その言葉に苦笑いを向け、ゆるく首を振った。

「ジークヴァルト様との婚姻は、わたくしも望むところですわ」
「そう、悪趣味ね」

 肩をすくめてイザベラはくすりと笑った。リーゼロッテの口元にもつられて笑みが漏れる。

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