寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「最後に忠告だけしとくわ。そんな痛々しい笑みを浮かべて我慢するくらいなら、ちゃんと自分の心に素直になった方がよくってよ?」
「……ええ、ありがとうございます、イザベラ様」
「あら、お兄様だわ。あんな女と踊ったりして。公爵になるんだから、変な虫がつかないようちゃんと見張っておかないと」
イザベラはすっくと立ちあがり、ちらりとブラル伯爵を見た。
「お父様に見つかると止められてしまうから、黙っていかせてもらいますわよ?」
「ええ、わたくし何も聞いておりませんし、何も見ておりません」
リーゼロッテがほほ笑むと、イザベラは満足そうに頷いて、兄のいるダンスフロアへと突撃していった。
ひとり残されたリーゼロッテは、手持ち無沙汰にグラスに残った果実水をくるくると回した。
先ほどのイザベラの言葉が胸に深く刺さった。痛々しいと言われ、いかに自分を押し殺しているのかを自覚する。
(自分の心に素直になる、か……)
あのジークヴァルト相手に、この気持ちを伝えてどうなるというのだろう。そんなことをしても結局は、ジークヴァルトが子供の我が儘に付き合わされる羽目になるだけだ。
見回すと、周囲の視線を痛いくらいに感じた。ぼんやり座っていてはジークヴァルトの恥になる。そう思ってリーゼロッテは居住まいを正し背筋を伸ばした。
ジークヴァルトはまだブラル伯爵と話を続けている。このままここにいて、知らない人間に声をかけられても気疲れをするだけだ。そろそろジークヴァルトのそばに戻ろうか。
気合を入れ直して立ち上がる。こんなことで弱音を吐いていては、この先が思いやられるというものだ。スカートにしわが寄っていないかを確認してから、リーゼロッテはゆっくりと夜会の喧騒に向かって歩き出した。
少し進むと、ふっと違和感に包まれた。人々のざわめきが、壁を隔てたようにぼんやりと耳に届く。
顔を上げた先、大勢の着飾った貴族たちの向こうに、いっそう鮮やかな深紅のドレスを着た女性が目に入った。人波の合間を縫って、その女性はゆっくりと歩を進めている。
とにかく人目を惹く女性だった。魅入られたようにその動きを目で追うと、リーゼロッテははっと体を強張らせた。
(誰もあの女を見ていない――)
「……ええ、ありがとうございます、イザベラ様」
「あら、お兄様だわ。あんな女と踊ったりして。公爵になるんだから、変な虫がつかないようちゃんと見張っておかないと」
イザベラはすっくと立ちあがり、ちらりとブラル伯爵を見た。
「お父様に見つかると止められてしまうから、黙っていかせてもらいますわよ?」
「ええ、わたくし何も聞いておりませんし、何も見ておりません」
リーゼロッテがほほ笑むと、イザベラは満足そうに頷いて、兄のいるダンスフロアへと突撃していった。
ひとり残されたリーゼロッテは、手持ち無沙汰にグラスに残った果実水をくるくると回した。
先ほどのイザベラの言葉が胸に深く刺さった。痛々しいと言われ、いかに自分を押し殺しているのかを自覚する。
(自分の心に素直になる、か……)
あのジークヴァルト相手に、この気持ちを伝えてどうなるというのだろう。そんなことをしても結局は、ジークヴァルトが子供の我が儘に付き合わされる羽目になるだけだ。
見回すと、周囲の視線を痛いくらいに感じた。ぼんやり座っていてはジークヴァルトの恥になる。そう思ってリーゼロッテは居住まいを正し背筋を伸ばした。
ジークヴァルトはまだブラル伯爵と話を続けている。このままここにいて、知らない人間に声をかけられても気疲れをするだけだ。そろそろジークヴァルトのそばに戻ろうか。
気合を入れ直して立ち上がる。こんなことで弱音を吐いていては、この先が思いやられるというものだ。スカートにしわが寄っていないかを確認してから、リーゼロッテはゆっくりと夜会の喧騒に向かって歩き出した。
少し進むと、ふっと違和感に包まれた。人々のざわめきが、壁を隔てたようにぼんやりと耳に届く。
顔を上げた先、大勢の着飾った貴族たちの向こうに、いっそう鮮やかな深紅のドレスを着た女性が目に入った。人波の合間を縫って、その女性はゆっくりと歩を進めている。
とにかく人目を惹く女性だった。魅入られたようにその動きを目で追うと、リーゼロッテははっと体を強張らせた。
(誰もあの女を見ていない――)