寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 ガラガラと車輪が回る音が響く。帰りの馬車の中、リーゼロッテは行きに約束したようにジークヴァルトの膝に乗せられた。

 菓子を差し入れる指先が、いちいち唇に触れてくる。その刺激だけで制御が効かなくなって、体のいたるところから力が溢れ出してしまう。そこにすかさず菓子が差し出され、ひたすら咀嚼(そしゃく)を繰り返した。

(夢……ではないのよね……)

 とめどなく流れ出ていく力に、次第に眠気が襲ってくる。食べても食べても追いつかない。もうまぶたが重くてくっつきそうだ。

「眠ってもいいぞ」

 やさしく声をかけられる。ああ、この声も大好きだ。そんなことを思いながら、リーゼロッテはまどろみに沈んでいった。

 はっと目を覚ます。次の瞬間、目の前にいたのは、自分の口にクッキーを差し入れているエラだった。

「お嬢様……」

 ほっとしたように呼ばれ、リーゼロッテはがばっと身を起こした。見回すと、公爵家のいつもの寝室だ。夜着に着替えさせられて、胸元にはペンダントの守り石が揺れている。

「……夢?」

 青ざめたまま、確かめるように唇を指でなぞる。
 もしあれがすべて幻だったとしたら。そんな残酷な考えがよぎって、リーゼロッテは色のない顔のままエラを見た。

「エラ……夜会は……?」
「夕べ公爵様とお戻りなられたとき、お嬢様はもうお眠りになっておりました。今日はゆっくり休むようにと仰せつかっております。あの、体は簡単に()かせていただきましたが、今から湯あみをなさいますか?」

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