寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「もう大丈夫なのか?」
「はい……ゆっくりと休めました」

 執務室のソファにいつものように並んで座るふたりを見て、(あるじ)の言うことに嘘はなかったとマテアスは安堵した。ジークヴァルトを見上げては、ぽっと頬を染めて目を逸らす。そんなことをリーゼロッテは先ほどからずっと繰り返している。
 そのたびにあふれ出る緑の力のせいで、部屋の中はいつも以上にご機嫌そうな小鬼たちがはしゃぎまわっていた。

「あーん」
「ヴァルト様もあーんですわ」

 これまでにないくらいの甘い雰囲気で繰り広げられているふたりのルーチンワークに、マテアスはほっと息をつく。ここまでくればゴール目前、ジークヴァルトが本懐を遂げれば万事オッケーだ。自分の心労も大幅に減少するに違いない。

(先日の異形の騒ぎで執務もたまりにたまっていますが、今日くらいは大目に見ましょうか)

 乳くりあうふたりに生温かい視線を送って、マテアスは書類へと手を伸ばした。

「ヴァルト様……くすぐったいですわ」
「嫌か?」
「嫌……というか、その、恥ずかしくって……あ、や、もう、くすぐったいって申し上げておりますのに」
「恥ずかしいだけではやめる理由にならないだろう」

 リーゼロッテの頬を撫でまわしながら、ジークヴァルトが魔王の笑みを浮かべている。そんなジークヴァルトの胸に手をついて、リーゼロッテはつっぱるように距離を開けようとした。すかさず体を引き寄せ、自分の膝の上に乗せてしまう。

「あ……ひゃっ。くすぐったいからやめてくださいませ」
「これならいいか?」

 頬に滑らせていた手を髪にくぐらせ、絡めるように()いていく。

「……恥ずかしいからやっぱり駄目です」
「いや、オレは何も恥ずかしくない」
「そんな、もう……」

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