寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 こんなやり取りをすぐそこで聞いていたマテアスは、ぷるぷると震えるペン先で必死に自分を押さえていた。もう、口から砂糖を吐きそうだ。(あるじ)とはいえ、執務中に他人のいちゃこらを見せつけられるのは、思った以上に精神を削られる。

(考えたら負けですねぇ)

 決してうらやましいなどと思っていない。マテアスは未来の家令だ。その立場から近づいてくる女性は後を絶たない。だが家令の伴侶となると、それなりの人格者を選ばなくてはならないのだ。金と権力目当ての者は論外だし、理想の伴侶は母ロミルダのように侍女長を務めあげられるような女性だった。

 損得勘定抜きで今まで付き合った女性もいるにはいたが、忙しすぎるマテアスに愛想をつかすのがいつものことだった。恋人は二の次三の次。そうなれば捨てられるのも仕方のないことだと、もう半ばあきらめている。

(だからといって、うらやましいなんて思っていませんからねっ)

 どうせいちゃつくならジークヴァルトの自室でやってほしい。リーゼロッテの耳をしつこくいじっている(あるじ)を横目に、げんなりしながらマテアスはため息をついた。その瞬間、執務室全体が前触れなくドン! と揺れた。

「ふぉおおぉお! 公爵家の呪いだけは勘弁してください!」

 マテアスも浮かれすぎていたのか、最重要事項を失念していた。このまま主の暴走を放置するわけにいくはずもない。
 ふたりに割り込むようにして、距離を開けさせる。リーゼロッテは真っ赤になって、肩で息をしていた。その体からぽっぽぽっぽと緑の力が絶え間なく飛び出している。

「これは……リーゼロッテ様も力の制御ができないと、困ったことになりそうですねぇ」

 ジークヴァルトに触れられて、動揺するたびに力を使い果たしてしまう。そんな状態では子作りに専念するのも難しいだろう。
 ジークヴァルトは再びリーゼロッテを抱き寄せ、せっせと菓子を口元に運び出した。そのたびに唇を撫でまわし、リーゼロッテはさらに脱力している。

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