寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「旦那様……あなたは阿呆ですか?」

 ぽつりと漏れ出た言葉が聞こえなかったように、ジークヴァルトはそのまま給餌(きゅうじ)行動を続けている。

「はぁ……もう、それ以上続けるなら、旦那様の部屋に行ってください。異形の邪魔は入りませんので、どうぞ心置きなく」
「いや、駄目だ」
「どうしてですか? もう我慢なさらなくてもいいでしょう?」
「駄目だ。明日、ダーミッシュ伯爵が来る」
「え? フーゴお義父様が?」

 くったりしていたリーゼロッテが瞳を輝かせて体を起こした。

「ああ、ルカも一緒に連れてくるそうだ」
「まあ! うれしいですわ」

 無邪気によろこんでいるリーゼロッテを見て、マテアスは複雑な心境になった。ダーミッシュ伯爵とは、リーゼロッテと絶対に婚前交渉を行わないようにと契約を交わしている。いかに公爵と伯爵の身分差があれど、契約の前ではごり押しもできない。
 しかもその契約書は、王の調印が押された最大級の効力を持つものだ。フーゲンベルク家とダーミッシュ家、そして王城に一枚ずつ契約書が保管され、不履行(ふりこう)になどできない貴族としての正式な契約だった。

 そこにダーミッシュ伯爵の本気が(うかが)える。しかも契約を破った場合には、婚姻が果たされるまで二度とリーゼロッテには会わせないという過激な内容なのだ。

(そこはそれ、そうなった場合には、なんとしても婚姻を早める所存ですが……)

 そのときはハインリヒ王子を使ってでも、マテアスはふたりの婚姻を前倒ししようと思っていた。アデライーデの件で公爵家は王子にものすごい恨みを抱いている。そのくらいのことをさせても、おつりがくるというものだろう。

「でしたらリーゼロッテ様は今日は早めにお休みになられてください。今の様子のままお会いしては、伯爵様にご心配をおかけしてしまうでしょうから」

 力の制御が効かずくったりしているリーゼロッテは、もっともだという顔をして頷いた。不服そうにしているのは、ジークヴァルトだけであった。

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