寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「そうか……お前は本当にいい子に育ったね。こんなにも誇りに思える娘の父になれたんだ。わたしこそ礼を言うよ」

 フーゴに頭をなでられて、リーゼロッテははにかむような笑顔を向けた。

「お前の方は、ジークヴァルト様とうまくやれているようだね?」

 フーゴは確認するように言った。前回に会ったときよりも格段に明るい表情のリーゼロッテに、その答えは聞かずともわかっていたが。

「は、はい、その、ヴァルト様とはちゃんと仲良くしておりますわ……」

 途端に真っ赤になってうつむいてしまったリーゼロッテを前に、フーゴの眉がぴくりと動いた。いまだ笑顔を保ってはいるが、その瞳の奥に剣呑(けんのん)な光を(ひそ)ませている。

「うん、そうかそうか。それはなによりだ。それでリーゼロッテ。ジークヴァルト様とはどんなふうに仲良くしているんだい?」

 そう問うとさらにリーゼロッテは頬を赤くした。頭から湯気でもでそうなその様子に、フーゴの笑みが顔に張り付けたようなものとなる。

「リーゼロッテ。恥ずかしがらずに言ってごらん? わたしもお前をジークヴァルト様に預けている身だ。失礼なことをしていないか、ちゃんと知っておかないといけないからね?」

 あくまで声音はやさしいものだ。しかしその目は全く笑っていない。だが頬を(しゅ)に染めもじもじしているリーゼロッテが、それに気づく様子は一向になかった。

「あ、あの、お義父様……実は先日ジークヴァルト様と……」
「うん。ジークヴァルト様と?」
「その、は、は、はじめてのくちづけを……」

 消え入りそうな声で言った後、リーゼロッテは耐えられないといったふうに、自身の顔を両手で(おお)った。父親にこんな報告をするのは恥ずかしい。だがフーゴの伯爵という立場を考えると、知っておきたいという思いも無下(むげ)にはできなかった。

「そうか、そうか。初めてのくちづけを。いや、そうか。お前がしあわせそうでわたしもうれしいよ」

 相変わらず笑っていない瞳で答えると、フーゴはすっと立ち上がった。

「……お義父様、どちらへ?」
「ジークヴァルト様にもう一度くぎを刺しに……いや、ご挨拶を申し上げてこようと思ってね。お前は何も心配しなくていいからね? すべてわたしに任せるんだよ?」
「は、はい、お義父様」

 いつにない強い圧をフーゴから感じて、リーゼロッテはただ頷いた。成人した身で娘をよろしくと頭を下げさせるのも気が引けたが、これも義父に愛されてのことだろう。

 そう思うとリーゼロッテは、とてもこころがあたたかくなった。

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