寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「当面はリーゼロッテ様の制御の訓練を最優先いたしましょうか。ダーミッシュ伯爵にもくぎを刺されましたし、リーゼロッテ様に手を出すのはまだ待ってくださいよ」
「婚姻の託宣が降りるまで、オレは彼女をどうこうする気はない」
「婚姻は前倒しも可能です。その件ならわたしがどうにでもいたします」
「いや、駄目だ」

 眉間にしわを寄せてジークヴァルトは口をへの字に曲げた。その(かたく)なな様子に、マテアスは息をつく。

「本当に婚姻までは何もされないおつもりなんですね?」
「ああ」
「わかりました。そういうことでしたら、こちらもその心づもりでいさせていただきます。今後リーゼロッテ様を自室に引き込むような真似はなさいませんよう」
「そんなことはしない」

 リーゼロッテの肖像画を見上げながら言うジークヴァルトは、いまいち信用ができないとマテアスは苦笑いした。

「そうおっしゃるからには、絶対に公爵家の呪いも発動させないでくださいね。万が一、屋敷を破壊するようなことが起きたら、その分、リーゼロッテ様とのお時間を削らせていただきます」
 
 ジークヴァルトが不承不承(ふしょうぶしょう)(てい)で頷くのを確認してから、マテアスはゆっくりと腰を折った。

「では、また明朝の手合わせで。おやすみなさいませ、旦那様」

 マテアスが去った部屋の中、ジークヴァルトは飽きもせず、目の前の壁に飾られた絵を見上げていた。幼い彼女が光輝く笑顔を向けてくる。
 ジークヴァルトはこの笑顔を、いまだ実際に見たことがない。彼女が見せるのは、困ったような苦笑いと、お手本のような淑女の笑みばかりだ。

 やはりジークヴァルトは思ってしまう。彼女の淑女の笑みが誰にでも向けられることが気に入らないと。

 そして何よりも、誰にでも向けられるその笑みが、同じように自分にもまた向けられるということが。

 ――それがたまらなく気に食わなかった。

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