寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ではこれを綺麗に包みましょう。あと、ルカの香りも決めましょうか」
「わたしの香り?」
「ええ、そうよ。お手紙にその香りをほのかにつけておくの。次にツェツィーリア様にお会いするときもその香りをつけていくのよ? そうすれば香りがするたびに、ルカのことを思い出してくださるわ」

 でもかけすぎは駄目よ? と付け加えて、クリスタはいたずらっぽくウィンクをした。

「ありがとうございます! 母上、わたしはさっそくツェツィー様に(ふみ)をしたためてきます! そのあとに父上のところにも行かないと!」
「あらあら、大忙しね」

 意気揚々と去っていったルカを見送ってから、クリスタはゆっくりと後ろを振り返った。

「あなた、いつまでそこで隠れているおつもり?」
「ルカに見つかるとまた面倒になると思ってね」

 苦笑いしながら姿を現したフーゴは、クリスタにやさしくキスをした。

「いい加減、ひとりで寝るのがさびしくなってきたよ」
「そう思うならルカの願いを聞いてあげたらどうかしら? リーゼは良い方だと言っていたのでしょう? わたくしもツェツィーリア様がもっと幼いころにお会いしたけど、本当にお人形のように可愛らしい方だったわ」
「そうは言ってもだなぁ……」
「ふふふ、ルカはきっと諦めないわよ。一度くらいチャンスをあげてもいいのではない?」

 可愛らしく小首をかしげる妻を前に、フーゴは降参したように眉を下げた。

「クリスタは本当にルカに甘いな」
「自慢の息子だもの。きっと悪いようにはならないわ」
「仕方ない。だがチャンスは一度きりだ」

 伯爵の立場としては、いい加減な決断などできるはずもない。領民の生活を守ることが、フーゴに課せられた重要な責務だ。懸命に働き税を納める(たみ)に対して、それは最低限果たすべき義務だろう。

 領主の顔に戻るとフーゴは、ルカを呼ぶよう家令のダニエルへと声をかけた。

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