寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あなた、話とはなんですか?」
「先ほどダーミッシュ伯爵家から婚約の申し出があった。跡取り息子がツェツィーリアをぜひにと望んでいるらしい」
「ダーミッシュ伯爵家が?」
「ああ、そこの箱はお前にと持ってきた。伯爵夫人からの贈り物だそうだ」
「まあ、なんてこと!」 

 公爵夫人は箱を開けて瞳を輝かせた。そこに詰まっていたのは、今話題のエデラー商会の化粧水一式だった。人気ですぐ品切れてしまうため、貴族女性の間で争奪戦が繰り広げられている。

「グロースクロイツ、この婚約話、何か裏があると思うか?」
「はて、わたしの立場からはなんとも申せませんが」
「いいから思うことを言ってみろ。お前は伯爵の息子に会ったのだろう?」

 イライラした様子でレルナー公爵はグロースクロイツを見た。この男は兄の代からこの家に仕えている。ツェツィーリアの従者として残してはいるが、掴みどころがなくて時折それが不愉快に思えてならなかった。だが今のところあの娘を(ぎょ)せるのはこの男だけなので、解雇するのは思いとどまっているレルナー公爵だ。

「ルカ・ダーミッシュ様は、お噂通り優秀な方でございますね。何よりあのツェツィーリア様を黙らせて、辟易(へきえき)させておいでです」
「あのツェツィーリアを?」
「はい、なんともお上手に」

 その言葉を聞いてレルナー公爵はしばし考え込んだ。ダーミッシュ伯爵が提示してきた条件は、なかなかに魅力的だった。しかし厄介払いができるなら、何も下位の伯爵家に嫁がせることもない。有益な候補はほかにもいるのだから。

「付け加えて申し上げますと、現段階で上がっている中で、ダーミッシュ家ほど最良の候補はいらっしゃらないかと」
「どうしてだ? 確かにグレーデン家のエーミールは女帝の容態が安定しない今、リスクが大きすぎると思っているが……だがほかにも多額の融資が望めそうな高爵位の相手はいる」

 レルナー家は先々代の公爵、父の代でかなり散財して財政がひっ迫した状態だ。そこを悟られないよう、必死に公爵家として体裁を保っているのが現状だった。

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