寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「恐れながら、残りのご候補は目先の利益しか望めないのでは?」
「ペヒ侯爵はどうだ? あそこは提示する一時金が他とは桁違いだ。ツェツィーリアが嫁いだあとも、援助を続けると言ってきている」
「だけどあなた。あそこはさすがにツェツィーリアが可哀そうだわ……」

 ペヒ侯爵は再婚を繰り返している男で、つい最近、四人目の妻を亡くしたばかりだ。だが今まで(めと)った妻はみな幼く、病死、事故死、行方不明など、もれなく若くして非業の死を遂げている。

「ペヒ侯爵様は残虐な性癖をお持ちなどという、恐ろしい噂もございますからね。万が一、ツェツィーリア様が嫁いだ後、すぐにお亡くなりになるようなことがあれば、援助はその段階で打ち切られるかと思われます」

 そこで一度言葉を切ると、グロースクロイツは声高に告げてきた。

「ですが、悪名高いペヒ侯爵様に、兄の遺児を嫁がせ死なせたという旦那様の名声は、大きく、高らかに、末永く、どこまでも社交界に(とどろ)き響き渡ることでしょう」

 まるで称賛するかの声音に、レルナー公爵の顔があからさまに歪められた。

「そんなことになったら、わたくしたちの可愛い息子の将来に影響が出るじゃない! ねえ、あなた、ここはやはりダーミッシュ伯爵家で手を打ちましょうよ。あの家は外交を務めるクラッセン侯爵とも繋がりがあるわ。王太子妃を出した家と縁続きなんですもの。伯爵家でも悪いことはないわ」

 贈られた化粧水を熱心に手になじませながら、公爵夫人は熱弁をふるった。ダーミッシュ伯爵家と身内になれば、この化粧水がいつでも優先して手に入るに違いない。そんなことを腹で思っているのがまるわかりだ。

「分かった。グロースクロイツ、あとはわたしたちだけで決める。お前はもう下がれ」
「仰せのままに」

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