寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 グロースクロイツが部屋を出ていくと、レルナー公爵は先ほどからずっと黙って聞いていた家令に問いかけた。

「……お前はどう思う?」
「ツェツィーリア様との婚約が、何らかの理由で破棄されることになったとしても、ダーミッシュ家は向こう十年の利益を保証しておられます。中長期に見て、やはり伯爵家がいちばん富と名声をレルナー家にもたらすことになるのかと」

 そう即答され、レルナー公爵は思案顔となる。

「我が領の鉄鉱石は良質ではありますが、フーゲンベルク領でも同等の物が採掘されております。そこをもって旦那様にこの話を持ち掛けてきたのは、真にツェツィーリア様を望んでおられるからでしょう。ルカ様はいずれ多くの令嬢からもてはやされる存在になるのは必至。この機を逸するのはわたしも得策ではないように思います」

 レルナー家にしてみれば、突然現れた新しい婚約者候補は、富ばかりか名声をも回復してくれる救世主のような立ち位置だ。身分が伯爵なのがひっかかるが、ツェツィーリアにとってもそれが最良の選択ということか。

「……もう財政的に猶予もない。こうなったら、ツェツィーリアの嫁ぎ先は伯爵家で手を打とう」

 あとはいかに恩着せがましく返事をするかだ。こちらとしては公爵家との縁をくれてやるのだ。その恩恵を受け取るための代償を、伯爵家が差し出すという体裁だけは保たねばならない。

「これを機に、レルナー家とフーゲンベルク家も、昔のような関係に戻れるかもしれないな」

 もとはと言えば父の放蕩ぶりに、当時のフーゲンベルク公爵だったジークベルトが腹を立て、一切の交友を絶たれてしまったのだ。そんな経緯は、息子や孫世代にはなんのわだかまりも残していない。

「よし、ツェツィーリアを呼んで来い」

 婚約者が決まったと伝えねばならない。レルナー家の未来がかかっているのだ。嫌だとかんしゃくを起こされても、絶対に押し通す決意をレルナー公爵は固めていた。

 しかし待てどもツェツィーリアは訪れず、グロースクロイツを連れてフーゲンベルク家に出奔したことを伝えられ、再び頭を抱えたレルナー公爵だった。

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