寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 木々が小さくざわめいた。整えられた庭木は、ふたりの小さな背を簡単に隠してしまう。吹き抜ける夏の風に、ルカからいいにおいが漂って、ツェツィーリアはどきりと鼓動を跳ねさせた。その香りは、ルカの手紙からいつも香ってくるものだ。
 胸の鼓動がやけに耳をついて、まるでこの世界にはふたり以外、誰もいないような不思議な気分に見舞われる。

「ツェツィー様」
「な、何よ?」

 ぶっきらぼうな返事は、みっともなく上ずってしまった。それが恥ずかしくて、ツェツィーリアは誤魔化すようにつんと顔を逸らした。自分の手を取ったまま、それでもルカはうれしそうに天使の笑みを向けてくる。

「ツェツィー様」
「だから何よ?」

 ツェツィーリアの手をすくい上げ、ルカは自分の口元ぎりぎりまで持ち上げた。

「口づけてもよろしいですか?」
「なっ!?」
「駄目ですか?」

 手の甲すれすれの唇からは、その吐息が伝わってくる。悲しそうに上目遣いで問われ、ツェツィーリアは真っ赤になって再びつんと顔をそらした。

「ど、どうしてもって言うなら、少しだけなら許してあげてもいいわ」

 顔をそむけたまま、自分の手の甲を突き付けた。恥ずかしがっていないし、(おく)してもいない。そんなことを意思表示するために。

「では、遠慮なく」

 弾む声で言うと掴んでいた手を引き、ルカはツェツィーリアを自身に引き寄せた。そのまま無防備に薄く開かれた唇に、ちゅっと音を立ててキスをする。
 軽く触れてルカはすぐ顔を離した。とろける笑顔でツェツィーリアを見降ろしてくる。

「な、な、な」
「ななな?」

 腕の中、全身真っ赤になったツェツィーリアに、ルカが不思議そうにこてんと首を傾けた。はわはわと唇をふるわせて、ようやくの思いで二の句を告げる。

「なんてことするのよーーーーーーっ!!」


 よーよーよー……と木霊(こだま)した絶叫に、周囲の木々から小鳥たちが一斉に羽ばたいた。

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