寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 しばらく上機嫌な様子で手を引いていたツェツィーリアは、植木の茂みまでやってくると、いきなり乱暴な手つきでリーゼロッテの手を払いのけた。
 くるりと振り返ったその顔は、ものすごく不機嫌そうだ。

「わたくし、認めないわよ」
「え?」

 自分を睨み上げてくる愛くるしいその顔を、リーゼロッテはお人形のようだとじっと眺めていた。

「あなたみたいな何もできないお飾りのような女がお兄様の婚約者だなんて、絶っ対に許せないわ!」

(美少女に罵倒(ばとう)されている……!)

 あまりの衝撃度に口元に手を当て、よろりと一歩下がってしまった。ツェツィーリアはツンデレ美少女だったのか。よくわからないところに感動を覚えて、リーゼロッテははわはわとなって瞳を潤ませた。

「このくらいで動揺するだなんて。本当に無能なようね」
 腕を組んでふんと鼻で笑われる。美少女は何をやっても絵になるものだ。

(再びツンデレいただきました! いえ、これはむしろデレツン? デレツンなの!?)

 異世界に転生して、今日ほどテンションが上がった日はないのではないだろうか? そんなことを考えながら、リーゼロッテはツェツィーリアの人形のような顔にいまだ見とれていた。

「ねえ、ちょっと(かが)みなさい」
「こうでございますか?」

 人差し指を下に向けられて、リーゼロッテは言われた通りにやや中腰となった。そのリーゼロッテの目の前に歩を進めると、ツェツィーリアはさらに不機嫌そうに小さな唇をへの字に曲げた。

 陶器のようにきめ細やかな白い肌に、長すぎるまつ毛、青い瞳は春の日差しにきらめき、黒髪は()羽色(ばいろ)と表現するのがふさわしい。そんなツェツィーリアを間近で見やったリーゼロッテは、先ほどからずっと夢見心地のままだ。

< 49 / 403 >

この作品をシェア

pagetop