寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「クラーラ様、こちらがお約束の魔よけのお守りですわ」

 預けていた簪の代わりにリーゼロッテは青いブローチを差し出した。これはマテアスが力を込めてくれた守り石だ。

「でも、本当に頂いてもよろしいのですか?」
「ええ、もちろんですわ。お友達になってくださった記念に受け取ってくださるとうれしいですわ」
「そそそんな、お友達だなんて恐れ多いっ。あのっ、これ、うちの領地で採れたビョウなんですけど、よかったらお納めください」
「まあ! この時期にビョウが! わたくしビョウが大好きなの。とてもうれしいですわ」

 ビョウとはリンゴそっくりの秋に実る果実の事だ。今は早春の時期なので、時季外れもいいところである。

「その、へリング領はビョウの産地でして……ですが今の時期のビョウは酸味が強くて、タルトやパイなど焼き菓子にして食べたほうがおいしくいただけるかと思います」
「そうなのですね。クラーラ様、ありがとうございます。料理長にお願いしてみますわ」

 リーゼロッテは上機嫌で微笑んだ。何しろ公爵家で出てくるアップルパイは、外サクサクで中身とろ~りの絶品パイだ。

(いちビョウあれば怪我知らず、三ビョウあれば風邪知らず、十ビョウあれば寿命が延びる……まるで魔法のリンゴね)
 そんなわらべ歌を思い浮かべながら、リーゼロッテはふふと笑った。

「リーゼロッテ様、本日はお招きありがとうございます」
「ヤスミン様」

 リーゼロッテが出迎えようと立ち上がると、ヤスミンの後ろからツェツィーリアがひょっこり顔をのぞかせた。

「ツェツィーリア様……」
「さみしそうにこちらを覗いてらしたから、一緒にお連れしましたのよ」
「別にさみしそうになんてしていないわ」

 つんと顔をそらすと、ツェツィーリアは当たり前のようにリーゼロッテが座っていた席に陣取った。すぐさま並べられた焼き菓子に手を伸ばす。その隣に腰かけて、リーゼロッテは近くにいた使用人に声をかけた。

「ツェツィーリア様にも紅茶を用意してもらえるかしら?」

 ツェツィーリアの前に紅茶が運ばれる頃、エマニュエルがサロンへと入ってきた。

「リーゼロッテ様、本日はお招きありがとうございます」

 妖艶にほほ笑んで、エマニュエルはクラーラの隣に座った。子爵家令嬢のクラーラが緊張しないようにと、その両脇は子爵夫人のエマニュエルと男爵令嬢であるエラの席とした。

 ヤスミンはリーゼロッテの一番近くに座し、残るひと席にはイザベラが座る予定だ。イザベラとエラの席はできるだけ遠くした。イザベラが何を言っても反応しないようエラにはお願いしてはあるが、この前のアンネマリーの茶会以来、エラはイザベラを毛嫌いしている。

 まだ到着していないイザベラを除いた六人で、しばらくはたのしく談笑していた。はじめは緊張した面持ちだったクラーラも、エマニュエルの話術もあって次第に緊張がほぐれた様子だ。

 お菓子を食べこぼすツェツィーリアを微笑ましく見やりながらも、他愛もない話に花が咲く。ツェツィーリアだけは黙々と菓子に手を伸ばし、置かれた紅茶に山盛りの砂糖を入れては、銀の匙でくるくると懸命にそれを溶かしていた。

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