寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「わたくし知っているのよ。レルナー公爵様は、ツェツィーリア様に年の離れた婚約者をあてがって、さっさと厄介払いをなさりたいと思っているのでしょう? 候補は幾人かいらっしゃるようだけど、どの方もレルナー家に有利な縁談ですものね。いいわ。下位の家に嫁いでも、公爵夫人としてわたくしがあなたのこと特別に引き立てて差し上げてよ?」

「イザベラ様!」

 腕の中のツェツィーリアの唇がぶるぶると震えている。可哀そうなくらいきつく噛み締められたそれは、青ざめて血の気を失っていた。

「何よ、本当のことを言って何が悪いのよ。ふん、あなたなんて公爵様に名前ですら呼んで貰えてないじゃない。そんな状態で婚約者だとふんぞり返られても、わたくしも可笑(おか)しくて笑ってしまうわ。まったく話にならないわね」

 言葉の(とげ)は容赦なくリーゼロッテへも向けられた。あのエマニュエルですら平静をかいている様子だ。周囲が気色ばむ中、リーゼロッテはイザベラの言葉に動揺しながらも、このままではまずいと焦りを感じていた。

「随分と話が弾んでいる様子だな」

 ふいに割り込んできたのは、いつの間にかそこに立っていたエーミールだった。この殺気立った雰囲気の中、よく声をかけてこられたものだ。

「ブラル嬢、よかったら公爵家を案内するが?」
「え?」
「あなたも屋敷の中を見てみたいと思うだろう? ()()()()()()()()()()

 エーミールは後半の言葉をわざと強調して言った。

「もちろんですわ!」
 イザベラが嬉々として立ち上がる。

「それでしたら、わたくし厩舎から見て回りたいですわ。フーゲンベルク家は馬の産地で有名ですし、実際にその実力のほどをこの目で確かめてみたいですわ!」
「ああ、ではまずは厩舎へと案内しよう。ニコラウス、先にブラル嬢を連れて厩舎へ向かってくれ」

 ニコラウスは自身の胃のあたりを押さえながら、「い、癒しが欲しい……」とつぶやきながらイザベラと共にサロンから出ていった。

 ブラル兄妹をサロンから追い出すと、エーミールはエラに笑みを向けた。

「エラ、今日のあなたはすごい顔をしているな。あの程度の令嬢なら、いくらでもいるだろう? 彼女は託宣どころか龍の存在すら知らないんだ。夢見がちな世間知らずの令嬢だと思えば、あんなことを言いだすのも無理はない。今日の所はわたしが彼女を引き受けましょう。リーゼロッテ様はどうぞ引き続き茶会をお楽しみください」

 そう言ってリーゼロッテに腰を折る。エーミールは最後にツェツィーリアを冷たく見やった。

「ツェツィーリア、もっと言動に気をつけることだな。さもないと、ブラル嬢が言ったことが早急に実現することになるぞ。ジークヴァルト様とて、(かば)うにも限度がある」

 それだけ言い残すと、エーミールはサロンを出ていった。

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