寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あのイザベラ様が夢見がちな令嬢だなんて。さすがはグレーデン様ね」

 くすくすと笑い出したヤスミンに、場の雰囲気が幾分かほぐれてくる。リーゼロッテも今日ばかりはエーミールに感謝しかなかった。エラとエマニュエルも同様に感じているようで、安堵の表情を浮かべている。

「気に入らないわ」

 ツェツィーリアだけが面白くなさそうに言って、まだ口をつけていないリーゼロッテの紅茶へとドバドバと砂糖を入れだした。その底に、こんもりと砂糖の山が築かれる。

「気に入らない、気に入らないわ!」

 唇を噛み締めて、乱暴に紅茶を(さじ)で回した。紅い液体の中、沈んでいた砂糖がぐるぐると回って、怒り狂った竜巻の様に立ち昇っていく。

「気に入らない、気に入らない、気に入らない!」

 そう繰り返しながら、溶けることのない竜巻が一心不乱にかき混ぜられる。

「ツェツィーリア様、例え相手に非があったとしても、物を投げつけるのは淑女の振る舞いではありませんわ」

 リーゼロッテが静かに言った。叱るでもなく、責めるでもない。その言葉にツェツィーリアの手がぴたりと止まる。

「お姉様は悔しくないというの? あんな女に好き放題に言われて」
「……わたくしとジークヴァルト様は、龍が決めた相手というだけですもの。イザベラ様のおっしゃることはあながち間違っておりませんでしょう?」
「どうして……どうしてそんなにお姉様は自信がないの!? お姉様は何でも持ってるじゃない! 青龍に選ばれて、家族だっている! みなに好かれて、お兄様のことだって……!」

 震える手で匙を強く握ったまま、ツェツィーリアは大きく腕を振り上げた。リーゼロッテに向かって投げつけられようとしたそれは、一瞬だけ躊躇(ちゅうちょ)されたあと、乱暴にテーブルの上に叩きつけられた。

「ツェツィーリア様!」

 ツェツィーリアはそのままサロンを飛び出した。リーゼロッテが後を追おうとするも、エマニュエルにそれを制される。

「ここはわたしにお任せを。ヤスミン様、クラーラ様、お騒がせいたしました。どうぞごゆっくりなさってくださいませ」

 ふたりに礼を取るとエマニュエルは、ツェツィーリアを探しにサロンを後にした。

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