寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「きちんとご挨拶いただけましたわ。こちらこそ、ヨハン様にはよくしていただいております」

 リーゼロッテが淑女の礼を返すと、ブランシュは見えないはずの目を「きゃっ」とふくよかな両手で覆った。

「もしかしてあなたがリーゼロッテ様ですか? すごく綺麗な緑! 眩しすぎてよく見えないっ」
「こら、ブランシュ、リーゼロッテ様に失礼だぞ」
「だってお兄ちゃん」
「お兄ちゃんではないだろう? お兄様と呼びなさい」
「あは、またやっちゃった」

 もちもちのほっぺたに手をやって、ブランシュはペロッと舌を出した。

「ブランシュ様は力を感じ取ることができるのですか?」
「はい! お兄様は青くって、リーゼロッテ様は輝く緑色! 隣の人は琥珀色だし、後ろにいるのは青、青、透明!」
「透明?」
「はい、だってその人は透き通ってて何も見えないから」

 エラを指さして言うブランシュに、リーゼロッテは感心したように頷いた。

「無知なる者のエラは、透明に視えるのね」
「こら、人様を指さすのはやめなさい! エラ嬢、妹が失礼を働いて申し訳ない」
「問題ございません」

 頭を下げるヨハンにエラは笑顔で首を振った。

「ヨハン殿、悪いけどオレあまり時間ないんだ。早いとこ書庫をのぞかせてもらえると助かるんだけど」
「あああっ、デルプフェルト様、申し訳ございませんっ! 今すぐご案内いたします!! エマ、悪いがブランシュの相手をしていてもらってもいいだろうか?」
「承知いたしました。さあ、ブランシュ様、参りましょう」
「やった! 今日は特別なお客様が来るからってお菓子も特別なの!」
「それは楽しみですわね」

 エマニュエルに連れられて、ブランシュはうれしそうに去っていった。手探りをしながら歩く姿は、やはり目が見えていないのだと見て取れる。

「では、書庫へご案内します」

 残りの一行はカーク子爵家の書庫へと移動した。

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