寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「こちらの部屋です。あまり所蔵する書物は多くはないのですが、古い物はここで確認が取れるはずです」

 フーゲンベルク家よりも手狭な小部屋だった。壁際に並ぶガラス戸付きの本棚に、小さめのテーブルがある。窓のそばに飾りのチェストが置かれ、その窓は厚いカーテンで閉め切られていた。部屋の中はほこりっぽく、籠った空気が支配している。

「急なことで掃除が行き届かず申し訳ありません。ここへは滅多に足を踏み入れないもので」
「とりあえず、家系図を見てみたいかな」

 カイの言葉にヨハンは一枚の大判な羊皮紙を取り出した。それをテーブルの上で広げてみせる。

「これが我が家の家系図です」

 カイがのぞき込みながら、その上に指を彷徨(さまよ)わせていく。

「あった、これだ。オクタヴィア・カーク。これがリーゼロッテ嬢が言ってた『ジョンのお嬢様』ってことかな?」
「はい、恐らく……」

 リーゼロッテも家系図を同様に覗き込んだ。オクタヴィアの伴侶は第五代目のカーク子爵レオンとなっており、オクタヴィアはレオンとの間に五人の子供をもうけたようだ。その下にさらに家系図が広がっている。

(オクタヴィアは本当に、恋人のレオン・カークと結ばれたのね)

 壁際にいるカークを見やる。不動のカークはレオン・カークが残した思念の残像のような物だ。本人がしあわせな人生を歩んでその生涯を閉じたとしても、その思いだけがあの場に焼き付いて残ったということだ。

「うーん、これだけじゃ、何も判断できないなぁ。他のも見させてもらおうかな?」
「はい、どうぞご自由に。ここでご覧いただく分には、どれでも見ていただければと思います」
「そうさせてもらうよ。リーゼロッテ嬢も手伝ってくれる?」
「はい、もちろんですわ」

 本棚に向かうふたりを黙って見つめていたエラに、ヨハンが遠慮がちに声をかけた。

「エラ嬢、もしよかったら君に見せたいものがあるんだが……」
「わたしにですか?」

 もじもじと大きな手指を付き合わせるヨハンに、エラは不思議そうに首を傾けた。

「ああ、別の部屋に置いてあるものをぜひ見せたくて」
「ですが……」

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