寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 エラは困ったようにリーゼロッテの背に視線をやった。リーゼロッテのそばを離れるのはためらわれる。

「ここにはオレもいる。エラ嬢は少し息抜きしてきたらどうだ?」
 隣に立っていたユリウスがにかっと笑った。

「エラ、わたくしなら大丈夫よ。何かあったらすぐに呼ぶから」
「ではお言葉に甘えまして、少しヨハン様と行ってまいります」
「おう、ふたりでゆっくりな」

 今度はヨハンに向けてユリウスはにかっと笑った。次いで親指を立ててサムズアップする。

「オレはお前に賭けてるんだ。頑張れよ!」
「はぁ」

 何のことを言われたのかわからなかったヨハンは、中途半端な返事をしてからエラを連れて書庫を出ていった。

「ユリウス様はヨハン殿に賭けているんですか? 無謀だなー。オレだったらグレーデン殿辺りにしますけど」
「大穴狙いの方が人生楽しいだろう?」
「はは、ユリウス様らしいですね」
「一体何のお話ですか?」

 リーゼロッテが不思議そうに問うと、カイは朗らかな笑顔を向けてきた。

「リーゼロッテ嬢は知らないんだ? 今、フーゲンベルク家で(おお)流行(はや)りの賭け事だよ」
「賭け事?」
「うん、エラ嬢を落とすのは一体誰かってね。あ、これ本人に言ったらダメだよ? おもしろくなくなるからね」

 人差し指を立てて神妙に言うカイに、リーゼロッテはあんぐりと口を開けた。

「ちなみにベッティはジークヴァルト様の従者君に、かなりの額をぶち込んだみたい。お金に(うるさ)いベッティにしてはめずらしいよね」

 破産しないといいけど、とカイは楽しそうに付け加えた。リーゼロッテは何も言えないまま、しばらくカイの顔を呆れたように見つめていた。

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