寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 まだ雪がところどころ残る裏庭を通り、ジークヴァルトに抱えられてジョンの元へと向かう。後ろに続くのは、公爵家にいる力ある者全員と、それにカイが加わった。カークは安全のために、部屋の前で留守番中だ。ちょっと不服そうに居残っていた。

 ジョンに会いに行きたいというリーゼロッテの要求に、ジークヴァルトは(かたく)なに首を縦に振ろうとしなかった。しかし、あれやこれやの交渉の末、リーゼロッテが「あーん一日無制限券」を提示すると、しぶしぶではあるが要求が通されることとなった。

(ジークヴァルト様の判断基準がよくわからないわ)

 そう思いつつも、ツェツィーリアが黙々と菓子を頬張る姿は、リーゼロッテも見ていて微笑ましいと感じたりはする。きっとジークヴァルトも自分への餌付けに、そんな快感を覚えているのだろうと、納得することにした。

(ツェツィーリア様と同じ子供扱いなのも、これはもう仕方ないわね)

 今はジョンのことを最優先で考えよう。会いに行って何ができるかは分からないが、オクタヴィアに託された一通の手紙を手に、リーゼロッテはジョンのいる枯れ木の前に到着した。
 ジョンの枯れ木があった場所は、山盛りの雪にうずもれていた。周囲の雪は多少残っている程度なので、そこだけが異常な光景に映る。

「ヴァルト様、もう少し近づいていただけませんか?」

 抱き上げられたまま上目遣いで覗き込むと、ジークヴァルトは仏頂面のまま、無言で言われたように歩を進めた。

「ジョン、聞こえる? わたくしよ」
 声をかけるが反応は見られない。

(こんなオレオレ詐欺みたいな呼びかけじゃ無理かしら)
 そう思って、そっと雪の壁に手を伸ばした。

「きゃっ」

 触れるか触れないかの瞬間に、雪山が盛大に緑の輝きを放った。その場にいた者たちが眩しさに目を覆う。光が収束した後、目の前に現れたのは、緑の大きな繭玉(まゆだま)だった。

「これは……」
「お前がやったものだ」

 ジークヴァルトにそう言われ、あの寒い日を思い出す。バルバナスの(めい)で会いに行ったジョンは、耐え難い憎しみにもがき苦しんでいた。

 だが、今ならわかる。ジョンが抱えているのは悔恨と喪失だ。オクタヴィアの命をこの手で奪い、誰よりも大切だったはずの彼女のしあわせを、自らが踏みにじってしまった。

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